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感染者のことは  作者: 獅子師詩史
第五章
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第二話

「おいおい、さすがに冗談キツイぜ? あいつらと仲良しこよしでやれってのかよ?」


 最初に口を開いたのは、龍宮寺だ。 妹である響は困惑したように、狛田は口に手を当て考え込んでいる様子を見せる。 これまで対策部隊と文字通りの殺し合いをしてきた仲、ここに来てその提案というのは到底受け入れられるものではない。


「私も良いとは思えないわ。 それに対策部隊がそんな提案に乗る? 乗らないに決まってる」


「って言ってもわたしたちだけでは賭けになるってのは捨てきれないね。 敵の力は未知数、シシ君がその気になれば組織の一つは確実に潰せるだろうけど……全部を相手にするのは少々面倒だ」


 村雨、そしてロクドウがそれぞれ声を挙げる。 村雨は龍宮寺同様反対、しかしロクドウはどちらかというと賛成にも聞こえる話しぶりだ。


「例えばの話っすけど、獅子女さんに西洋協会と単独でやってもらったとして……後ろから対策部隊やチェイスギャングに攻撃でもされたら、ロクドウさんの言う通り非常にめんどいんすよ。 戦える力はあっても体力は無尽蔵じゃない、だから今までも一気に叩き潰さないで力を削り取ってるんすから」


「それで共闘か」


 アオが説明し、我原は腕を組んだまま目を瞑る。 我原は対策部隊を潰すために神人の家へと加わっているのは間違いない。 その我原が素直に首を縦に振るというのは少々考えづらかった。 目的のためであれば手段を選ばないというのは当然として、今回の提案というのはそもそもの目的が対策部隊を潰すためではなく、西洋協会を潰すためなのだから。 結果として目的が我原のそれとズレているという事態にもなっている。


「ひとまず多数決とりましょーか。 僕の案に賛成の人」


 アオが取り仕切るように言うと、獅子女、ロクドウ、雀、狛田ハヤトが手を上げる。 九人中五人、僅かな差ではあるもののアオの意見を尊重するのは過半数を超えている。 が、いつもであれば仮に反対意見が出たとしても一人か二人。 今回のように綺麗に分かれるということはなく、それはそれだけアオが信頼されているということにも直結する。


「じゃあ、反対の人は?」


 続けて言うと、我原、龍宮寺真也、龍宮寺響、村雨ユキが手を上げる。 分かっていたことであるが反対者は四人、真也率いる鴉の中でも意見は割れているようだ。


「うーん……どうしましょ?」


「反対者がいる以上強行はしない。 明確に意見が綺麗に割れたこともねえしな、どうすっか」


「やっぱりまとめないとダメっすよねぇ。 けど、それなら僕に良い案があるんすけど」


 獅子女が言うと、アオがすぐに口を開く。 どうやら既にアオは意見をまとめる方法にまで考えが及んでいる様子だ。 獅子女に意見を聞いたのは、あくまでも取りまとめているのは獅子女だという認識からだろう。


「完全にまとめるってのは不可能だと思うんすよ。 それに時間があれば話し合いする余裕もありますけど、今回はそれもない。 ってことは手短にまとめなきゃいけないわけっす。 というわけで僕とじゃんけんして決めません? 僕が勝ったら僕の案で、僕が負けたら別の案を考えます。 ただ分かって欲しいのは、たった今何を最優先とし、何を利とするかってことっす」


「は? おいおい待てって。 そんな遊びみたいなテンションで決められることじゃねえだろ? それに他の案ってすぐに出るもんでも……」


「案ならもう四個ほど予備はあります。 ただ、一番確実かつ組織のためになるのが今揉めている案なんすよ。 決め方についてはまぁ面倒ってのが一番っすけど」


 まさかの発言に異を唱えたのは龍宮寺で、アオは特に気にすることなく返す。


「……まぁ俺らは部外者っちゃ部外者だからな、口出しはそこまでしねえけど」


「良いって良いって。 今回は助けられたところもあるし、イイ男は好きだから」


「え、はは……どうもッ!?」


 村雨がいつも通りの絡み方をし、真也は鼻の下を伸ばす。 それを受け、真也の足を思いっきり踏みつけたのは響だった。


「重要なのは何を最優先し、何を利とするか……か。 ……分かった、オレもアオの案に乗ってやる。 対策部隊と共闘するという案だ」


「お、マジっすか。 なら後は三人ですけど」


「えー、ボスも我原くんもそっちなの? なら私もそっちにしようかな」


 村雨はすぐさま寝返る。 それを聞き、居づらそうに表情を曇らせるのは龍宮寺真也だ。 響の方はただ兄に付いていくというだけで、特に何も感じている様子はない。


「ってわけで残るは二人ですけど」


「……だー! 分かった分かった、俺と響も賛成だ! どうなっても知らねえからな!」


「オッケーっすね、これで方針は決まったので、煮詰めていきましょうか」


 自身の案が通ったことが嬉しいのか、アオは機嫌良さそうに話をまとめつつ、その場にいるメンバー全員へ向けて話を始めるのだった。




「お疲れ様」


「どうもっす。 珍しいっすね、僕に絡んでくるの」


 その後、マンションの屋上にて休憩していたアオのところへやってきたのはロクドウだった。 手に持っていた缶コーヒーを受け取り、アオは景色を見つつ蓋を開ける。


「そりゃもちろん、わたしの仕事はカウンセラーだからね」


「……あはは、遠慮願いたいっすねそれ。 なんかいろいろヤバイことになりそうっすよ、頭の中ぐちゃぐちゃにされそーっす」


「そうかい? わりと好評なんだけれど」


 ロクドウは言いながら、アオの横へと腰を降ろす。 すぐに戻る気はないという意思表示にも思えた。 地面へと座るロクドウは、無表情でアオとは反対方向へと顔を向けている。


「人にはそれぞれ目的というものがある。 個々人で些細な違いはあれど、わたしたちの場合は大体が同じ方向へと向かっている」


「まぁそうっすね。 けどロクドウさんは違いますよね? 暇潰しって感じがしますし」


「……」


 言われたロクドウは柵に背中を預けたまま、空を見る。 数秒の間を置き、口を開いた。


「いやいや、随分失礼だなアオ君は。 わたしはかつて、とても大切な人を殺されてる。 慕ってくれる相方とでも言うべきかね、そういった人を殺されているんだよ。 だからわたしも一緒というわけさ、くふふ。 そんな友人の仇討ちというわけだね」


「そんな今作りましたって話をされましてもねー。 ロクドウさんがそんな理由で行動するとは思えないっすよ」


「そりゃそうさ、アオ君を元気づけるための作り話だから」


「あはは、どうもっす」


 冗談交じりな言い方にアオは笑い、小さく息を吐く。 これからのことは少し考えなければならない、少なくとも自身がまた同じ状況に陥ったとき、その場にいた仲間もろとも攻撃してしまう可能性は大いにある。 本来、アオの持つ百鬼夜行はそういった類の力なのだ。


 影から生まれる怪物は、周囲に存在するアオ以外の生物全てを敵と判断している。 その手段こそ喰らうのみであり、神人の家の者であれば攻撃を受けずにいることは容易だが……前回と同じ状況の場合、果たして無事でいられるかが分からない。 記憶こそおぼろげにしか残っていないが、我原はハッキリと「手に負えるものではない」と、断言したのだ。 我原ですらその判断……仮にも我原と雀は獅子女に次いで神人の家の中では実力を有している。 その我原が手に負えないとなれば、最早獅子女にすら対応は不可能の可能性が高いということだ。


「シシ君にキツく言われて気にしているのなら、それこそ杞憂というものだ。 在り来りなセリフだけれど、彼は人一倍仲間想いだからね。 だからこそああいう言い方をしたんだろうさ」


「それは分かりますよ、分かるんすけど……今回の作戦を行う上での懸念事項は僕だけなんすよ。 予想通りに進めば、問題なく西洋協会は潰せるはず。 でも、もしも()()()()()()が起きたら、組織として機能しなくなる可能性もある」


「馬鹿だねぇアオ君は。 それを含めての組織だろう? 一度進み始めれば止まることなんて許されない道だ、何が起きても、何が立ち塞がったとしても、誰が死のうと欠けようと。 たとえ今回の作戦でシシ君が死のうと、神人の家はなくならない。 アオ君に一つ質問をしよう、組織が組織としてあり続けるために必要な物は?」


 いつになく、ふざけた様子もなくロクドウはアオに尋ねる。 アオはそれを聞き、数秒の思考の後口を開いた。


「資金、人材、指揮系統、あとはそうっすね……人脈なんかも大事になりますけど。 他には……」


「問題はもっと根本的なものだよ。 組織が組織としてあり続けるために必要な物、それは統一された意思だ。 食品関係ならばより美味しいものを提供するという統一された意思、玩具関係であれば子供を笑顔にできるような物を作るという意思、アオ君が好きなゲームだってそうさ、触れた人が熱中してしまうような物を作るという意思。 その意思をどれほどの人数が強く持ち、統一された方向へ持っていけるか。 それが強ければ強いほどに組織は組織としての力を持つ。 分かるかい? その確固たる意思さえあれば、たとえ一人になろうと組織として機能し続ける。 わたしたちもまた同様ということだよ」


「意思、っすか」


「目的を見誤らないことだ。 最優先は対策部隊を潰すことに他ならない、今回動くのもその手段の一つで、たとえ誰が死のうと消えようと神人の家としての意思を汲めば良い。 それだけを考えた方がよほど気楽だろう? クスノキ君のことは残念だったけれどね、悲しむのは後でもできる。 それにわたしが知る限り、簡単に殺されるような子はこの中にはいない」


 そう、その通りだ。 アオはロクドウの言葉を聞き、目を閉じ、息をゆっくりと吐き出す。 ざわついていた心が落ち着いた、驚くほど冷たく静まり返った。


「宣伝しときますよ、ロクドウさんのカウンセリングは効果ありって」


「それはどうも、力になれたようで何より」


 言い残し、ロクドウは屋上から去っていく。 残されたアオはしばし人が一切見えない外の景色を眺めた後、手に持っていたコーヒーを飲み干すとロクドウの後を追うのだった。

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