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感染者のことは  作者: 獅子師詩史
第四章
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第十・五話

「面白いことを考えた」


「……そう唐突に言われましても、私にはあなた様の考えは理解できません」


 都内の某所に存在する集いのアジト。 廃墟を利用する形で作り上げられたそこには王座が存在し、そこに座るのはとても王座には似つかない少女だ。 黒いローブを纏い、その姿からは口元しか伺えない。


「おいおい大体分かるだろ? 月時雨。 わたしの考えなんて、動物的な直感に従ったものでしかないんだからさぁ。 では問題だ、ヒトにとってもっとも辛いことはなんだろう?」


「人にとって辛いこと、ですか。 親しい者の死や、離別。 それらがもっとも人に痛みを与えるものかと思われますが」


「うんうん、そりゃそうだ。 わたしもおかーさんとかおとーさんが死んだら悲しいねぇ、ふふ。 けど正解は予想だにしなかった出来事が襲いかかったその瞬間なんだよ。 予想外の方向から予想外の攻撃が飛んでくる、予想外のショックは予想外に傷を深め痛めつける。 その出来事が大きければ大きいほど、傷が深ければ深いほど、ヒトというのは心がコワれてしまうんだ。 ああ、想像するだけでヨダレがでちゃう」


「……あまり、いい性格をしているとは思えませんよ」


「そんなの分かりきったことだろ? ふふ、アハは。 さてさて、次の質問は……心がコワれるのがもっとも美しいのは、どんなヒトだろう?」


「それ自体に、私はあまり良い感性を持ち合わせていません」


「つっまらない答えだなぁ月時雨。 正解はカワイイカワイイ女のコだよ。 儚げで、健気で、純真なコ。 そんなコが泣き叫び痛みにのたうち回る姿ほど美しいものはないと、わたしは思うんだ。 というわけで」


 手を叩き、笑う。 小気味いい音が廃墟に響き渡った。


「夢見る夢見がちな乙女を壊しにいこう。 ふふ、ふふふふ。 なぁ月時雨、可愛い女のコの悲痛な叫びは聞いてみたくないか?」


 少女は立ち上がる。 それに対し、月時雨は最早何を言ってもその行動を止めることはできないと悟った。 少女が王座から立ち上がるとき、そして笑っているとき、それらは決められた行動であり決定事項だ。 自分が何を言おうと、その少女は心の中に決めたことを実行に移す。


「時期が良い。 海の向こうの連中がやってきて、世間が騒がしい今が最高だ。 もっとグチャグチャに、グツグツに混沌とさせたくなってくるじゃんか。 だからわたしは、もっと腹の内から泥が溢れ出るような秩序にしたいんだ。 多くのヒトの叫び声が聞きたいんだ。 ああ、楽しみ……まずはその最初の声は、大合唱の第一声は彼女にしよう」


「彼女、とは?」


「おいおい考えれば分かるだろ? あの子だよ、あの子――――――――四条琴葉ちゃん」


 そして、少女はその姿を異形のものへと変えていく。 四脚は誇大し、その顔も体もまるで悪魔のようなそれへと変わっていく。 V.A.L.Vの怪物、しかしそれは自我を持ち思考する怪物だ。


「――――――――カノジョノタイセツナモノ、コワシテミヨウゼ? アハハ、アハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!」


 地鳴りのように、金切声のように響き渡る笑い声は、その行動を止める気は毛頭ないということを表していた。

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