第一話
投稿の方遅れており、申し訳ありません。 ゆっくりではありますが、四章の投稿開始致します。
「おお、勢揃いっすね」
我原から呼び出された、そしてテレビの中継で信じられないニュースを見たことから、我原の家へと訪れたのはアオだった。 彼女ですら我原の住所というのは知っておらず、転送されてきた住所をメモとして保存したのは言うまでもあるまい。
「それほどまでにということだ。 先程、獅子女さんから連絡があった。 柴崎雀、楠木莉莉、四条琴葉、その三名と共に獅子女さんはこちらへ向かっているが、交通の事情により遅れるとのことだ。 具体的にいうと、空が使えない。 よって柴崎雀の運転により向かっている」
「ガハラ君の言い方は回りくどいんだよね、聞かされる身としては校長先生のお話を聞くようだよ。 ひと言で言ってしまえば良いじゃないか、ご愁傷様って」
我原の家というのも、まるで生活感を感じられない家であった。 物という物がそもそもない、生活をしているというよりかは、ただ場所として使うような家だ。 椅子やソファーなどの家具もなく、語る我原は壁に背中を預け、ロクドウは隅の方に腰掛けている。
「航空網が使えないのは、あいつらが使っていたヘリの所為ってところね。 その所為でボスたちも帰って来るのが遅れる、それまで私たちが耐えてくれっていうのが、ボスの言葉よ」
言うは村雨。 その場に立ち、腕を組みながら話す。
「合流してから対策をって感じっすかね、それだと。 んで村雨さん、桐生院さんと軽井沢さんは?」
「一応外傷はどうにかなったわ。 けど、原因不明で意識がない、恐らく何かの文字ね。 こればっかりは、その原因を殺すか文字を解かせない限りってところ」
「つーことは、その感染者にも注意しなきゃなんないっすね。 獅子女さんが戻ってきて、僕ら全員眠り姫状態とか目も当てられないっすから」
桐生院と軽井沢は戦力として機能していない。 であれば、今居る戦力は我原、ロクドウ、村雨、シズル、そして自分の五名のみだ。 いつも居る戦力の半分、そして獅子女と雀という戦闘に特化した人物も欠けている。
「対する相手は勢力も能力も不明。 かなり分が悪いっすね、これは。 けど向こうの話じゃ、あいつらが言うところの『領土』に入らなきゃ良いんすよね?」
西洋協会が示した領土、それは関東地区の南部だ。 主に神人の家が拠点としている場所も含まれており、獅子女の家や学校もそこには含まれている。 アオは一瞬、獅子女の友人と言われる少女を保護した方が良いのではとも思ったが、それが必要であれば獅子女から連絡が来るだろうとの判断から、その思考は隅へと置いた。
「……先程、オレが獅子女さんに言われた言葉だ。 獅子女さんが戻るまでの間、神人の家の指揮をオレに任せると」
「向いてなさすぎて笑えてくるよね、アオ君」
間髪入れず、ロクドウはアオへ視線を向けて言う。 どれだけ我原を馬鹿にしているのだろうと、そしてそれほど我原を馬鹿にできるのはロクドウくらいのものだろうと思いつつ、アオは返事をする。
「いやぁ、どうっすかね。 まぁ良いんじゃないんすか? 総合的に見たら雀さんより我原さんの方が向いてると思いますし、僕個人の意見ですと獅子女さんの次は我原さんって感じですしね」
それを聞き、我原は一瞬だが驚くような表情を取る。 アオの意見であれば、冷静に汲み取った結果、あまり良い手だとは思えないという旨の発言をするかと思ったからだ。 そして、もしもアオがそう口にすれば指揮系統はアオに任せようとすら、我原は思っていた。
我原にとって、もっとも優先すべきは神人の家という組織である。 組織そのものを生かすためであれば、自らの命であろうと我原は差し出す。 それほどまでに神人の家という組織を生かすことこそに意味があるのだと信じており、だからこそ、神人の家の中でももっとも頭の回転が良いアオに委ねるのは当然のことだと思っていた。
そんなアオが、我原を推薦したのだ。 これでやる気が出ない方が、どうにかしているだろう。
「ただし、大体の方向性を我原さんが取って、その道筋を僕が作るって形っすよ? これは獅子女さんのときもそうなんで、僕としちゃ絶対譲れないっす。 もちろん我原さんであろうと」
「……構わん、オレとてそれが最善だとは心得ている。 では、獅子女さんが帰ってくるまでの間はオレが指揮を取る。 異論はないか?」
「オオアリだよオオアリクイってほどに。 だってガハラ君の指揮とか堅苦しそうでわたしとしては息苦しいんだよねー。 というわけで、ここはひとつ同じ女子としてムラサメ君を推薦しよう」
「ロクドウさん、それって僕が女子じゃないみたいな言い方なんすけど」
アオの言葉に、ロクドウは無表情で視線を向けた後、すぐさま逸らす。 謝罪する意思はどうやらないようだった。
「むしろ誰でも構わない、とにかくガハラ君以外をスカウトするべきだね」
「ロクドウの意見は聞くだけ時間の無駄だ。 オレは別に誰が纏めようと構わん、それが組織のためであるならな」
我原は言い、着ていたコートを壁へと掛けた。 下に着ていたのは黒いロングティーシャツで、細いとまではいかないものの、男にしては華奢な体付きだ。
「アオ、お前には策を立てて貰う必要がある。 朝食は摂ったか?」
「へ? 朝ご飯っすか? 起きて即だったんでまだっすけど」
「適当に作ってやる。 待ってろ」
「……我原さんの手料理っすか!? うわなにそれ、動画撮って良いっすか!?」
満面の笑みでアオは言う。 が、我原はそんなアオを睨みつけ、ひと言「死にたいのであれば勝手にしろ」と言い放つのであった。
「しっかし、どうなんすかねぇ実際。 正直、桐生院さんと軽井沢さんが倒されるって想定していなかったすよ」
「悪く言えばそれだけ敵も戦力があるということだね。 良く言えばお楽しみが大いにあるということさ、アオ君」
ロクドウはどこか楽しげだ。 それもそうだろう、彼女にとって日常に差し込んでくる変化というのは、全て等しく楽しみを感じる物なのである。 長い年月を重ねるというのは、そういうことだ。
そんな会話を聞いていた一人、村雨が口を開く。 彼女はいつもであればアジト内の掃除や買い出しなど、主に雑務を進んでこなしてくれている。 更に、負傷したメンバーの治療なども手掛ける縁の下の力持ちとも言える存在だ。
「怪我を見た限り、相当打ち合った様子が見て取れるわ。 それに加えて意識を奪う文字、強制的にとなったら厄介極まりないけど、そこまで強力な敵が居るかってところかしら」
「わたしとしては居て欲しいね。 そりゃもうシシ君をぶっ殺せるくらいに強力な相手が」
「また物騒なこと言うんだから……。 んでロクドウさんはなんか知らないんすか? 西洋協会について」
「くふふ、わたしが海の向こう側の組織に興味があるとでも? そういうことなら余程、アオ君の方が詳しいだろうに」
ごもっとも、ロクドウが他者に抱く興味など、ごく僅かなものでしかない。 そもそも、獅子女に対してロクドウは少々興味はあるものの、それ以外に興味があるとは思えない。 アオを以ってしてもロクドウの過去というのは探れておらず、掴みどころがない人物だということに変わりはないのだ。
「ただある程度の条件はあるだろうね。 それを満たさなければ無事ということだ、まぁその条件が分からない以上、言えることはひとつある」
ロクドウは言うと、人差し指を一本立てた。 言葉遣いを抜きにすれば、見た目こそ幼い子供にしか見えないロクドウであるが、その中身は数百年を生きている化け物、知識だけでみればもっとも優れているだろう。
「動くのであれば慎重に、ということさ」
「確かにそうっすよね……何も分からない状態で大きな動きなんて起こせっこないし」
敵の戦力、文字、そして拠点の正確な位置。 それらを把握しなければならない、そしてその上で最善と言える選択を取るべきだろう。 重要なのは獅子女の帰還まで持ち堪えることができるか、という点だ。
「遅くなったが、オレたちのすべきことを話す」
「っと、どもっす」
我原の声と共に、アオの前に皿が置かれた。 我原が作ったとは思えない、というよりかは似合わないサンドイッチが置かれている。 思わずまじまじと我原の顔を見るアオだったが、我原はそんなことを気にせずに口を開いた。
「今更の話だが、既にオレの中では方向性は決まっている。 シズルにもそれに向け動いてもらっている最中だ」
そういえば、とアオは思い出す。 ここに来てからというもの、シズルの姿を見かけていなかった。
「アオ、獅子女さんは自らが戻るまでの間、持ち堪えてくれと言っていた。 どう思う?」
「へ? えーっと、まぁ持ち堪えるだけなら余裕? っすかね。 まだ情報が集まりきってないんでなんとも言えないっすけど」
「そうか。 では、組織としてではなく個人の感情として、どうしたい?」
言われたアオは、目を瞑る。 少し考え、目を開く。
「そんなの、調子乗ったゴミどもをぶっ殺したいに決まってんじゃないっすか」
「決まりだ。 今現在、指揮権はオレにある。 それを乱用するわけではないが、オレとて我慢するにも限度がある。 個々の感情が全て同一であるならば、それは最早組織の動きとして最善だ。 責任はオレが取る」
我原は言うと、コートを羽織る。 言葉をひとつひとつ積み重ねる度、尋常ではない殺気が部屋の中を包むのが分かった。
「異国の土人共に戦争というものを教えてやろう。 全員戦闘準備にかかれ、獅子女さんが帰るまでに掃除を済ませるぞ」




