夏の待ち合わせ
闇にとけ落ちた光が紫味を帯びて辺りを漂う頃のこと。風のささやきが森じゅうを駆けめぐり、少年にも伝わった。口元に愛くるしい笑みを浮かべていた少年の顔は今や青ざめて、唇はきゅっとかみしめられている。視線は下に、うつむきがちに目が伏せられる。
小ぶりな木の上で、彼は一人もの思いにふけっていた。月明りはそれを優しく包みこみ、夜風はなびいて彼の銀の髪をそよがせた。
少年は寂しそうに微笑んで、首を左右に振った。「いいんだよ、ぼくに構わなくっても」そして枝を揺らして柔らかい草地に降り、木の幹にもたれかかった。
小さな人影が草の海を渡ってくるのが少年の目に映った。容姿がうり二つの子ども。誰なのか解った少年は熱っぽい瞳で見つめ、次いですねたように口をとがらせた。
「――くるのが遅いよ。何かあったんだと思ってすんごく心配したんだよ、ぼく」
双子のもう一方は何も言わず、目を細めてくすり、と小さく笑った。