第四章:命令
午前十一時ちょうど、金光の料理が出来上がると再び全員が席に着き、昼食が再開された。ちなみに前菜としてテーブルに並べられたものは全て俺が美味しくいただいた(もう腹がいっぱいだって? ふふ、まだまだ腹一分目だね)。
相変わらず話はほとんど生じない。金光がたまに誰かに話しかけ、渋々といった態でそれに応じる声以外は―――それと、俺が席から離れた料理を持ってくるように頼む声もある。結果としてほとんどの料理が俺の目の前に並んだ。
しばらく時間が経ち、テーブルにある料理がなくなってきたころ。金光がリビングにある時計をちらりと見て、唐突に話し始めた。
「楽しい時間はあっという間に過ぎるというのは本当のことだね。現在十一時四十五分、そろそろ料理もなくなってきたし、この後の予定でも話そうか」
金光以外のメンバーは少しげっそりとした表情をしている。まあ楽しい時間が早く感じるように、嫌な時間というのは長く感じるのだろう。俺自身は、久しぶりに豪華な料理(唐揚げとかエビフライと麻婆豆腐とか。豪華っていうよね?)を食べられてかなり楽しんでいたのだが、それでも少し時間が長く感じた。やはり緊張しているのだろう。
「さて、この後君たちには、奥にある部屋にそれぞれ一人ずつ入ってもらう。そして、僕が君たちの部屋に順々に入っていき、今後についての話をしていく。まず、十二時から十四時三十分の間に一度話し合う。そして十六時三十分から十八時の間にもう一度話をしに行く。それが終わったらみんなで夕食をとり、その後は各自思い思いに過ごしてもらって、翌七時に再びリビングに集合、というように考えている」
異存はないかというように金光は皆を見回す。すると、藤宮が金光を睨み付けながら言った。
「なんでわざわざ話し合いを二回に分けるのよ。別に一回でいいでしょ。それに十四時半から十六時半までの空き時間はいったい何なのよ」
やれやれと言ったように首を振りながら、金光は答える。
「全く、これは君たちのことを考えての提案なんだよ。もちろん僕だって一度の話し合いで済めばそれに越したことはないと思っている。しかし、僕の要求に対し、君たちだって考える時間が必要になるとは思わないかい? 一度で話し合いを終わらせようとして、お互い落ち着いて話し合うことができなくなってしまうかもしれない。そうならないように、君たちに考える時間を与えてやっているのじゃないか。僕だって少し時間をおけば考えが変わって謙虚な対応になるかもしれないしね。どうだい、この説明じゃまだ不満かね」
藤宮は一度舌打ちをした後、納得したわ、と言ってそっぽを向いた。
藤宮の質問が終わると、今度は飯島が質問する。
「別に六時に話し合いが終わるならその時点で解散でいいだろ。なんでわざわざこんな山奥で一泊しないといけないんだよ」
「一泊二日の行程であることはすでに話していたと思いますが、まあいいでしょう。せっかくなので答えますが、これもあなた達のことを考えての措置なんですよ。話し合いのチャンスが二度あるとはいえ、それでも話がまとまらないかもしれない。その時、あなた達からしたら少しでも僕と交渉する機会がほしいだろうと思ってのことです。仲良くしましょうとは言いましたが、僕とあなた方とで、どういう関係なのかははっきりと理解しておいてもらいたいものですね。
まあ後は、こんな山奥を暗い時間帯に下りようとしたら最悪遭難してしまうかもしれないので、この山荘に止めてあげようという僕なりの親切だったのですが、うまく伝わらなかったようですな」
じろりと金光に見据えられ、飯島は何も言えずに黙った。金光の迫力に押され、質問するものもいなくなったかと思われたが、涼森が口を開いた。
「私たちはあなたが話し合いに来る時間、十二時から十八時までは部屋の外に出てはいけないのですか」
「おおそうだ、そのことを話さないといけなかった。君たちに入ってもらう部屋は少し特殊でね、部屋の外側からのみ鍵の操作ができるようになっているんだよ。君たちが部屋に入っている間は僕が鍵を外側からかけさせてもらう。部屋の中は完全防音になっているから、外の音は一切聞こえない。まあこれも、話し合いを聞かれたり覗かれたりしないようにするためのものだ。他の者に聞かれたい内容にはならないと思うからね。
そういうわけだから部屋の外には出られない、ということだ。安心したまえ、部屋の中にはトイレや時間つぶし用の道具もそろえてある」
涼森は静かに一度頷き、下を向いた。
金光は涼森から視線を外し、いまだ質問をしていない俺と水谷のほうを見た。水谷は下を向いて口を閉ざしたまま、俺は特に発言内容が思いつかず黙って首を横に振ったので、金光は一度手をたたき、
「では、ちょうど十二時になったことだし、各自好みの部屋に入ってくれ。まあ内装はどこも変わらないがね。もしリビングから持っていきたいものがあるなら持って行っても構わないよ」
と言った。
それぞれが、部屋の中に入っていくのを見終えてから、俺は部屋に向かわず、金光のもとに向かって行った。