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1552  作者: 芳木 
中学2年 12月 『出会い』
3/3

2日目

 12月2日 (月)

 今日は新しい学校に、はじめて行った。 


                       ***


「じゃあ有明さんは八組の教室に行ってね」

「はい」

 彩葉が転校してきた学校、山谷中学校は第二学年が二百九十五名で、八クラスに分けている。彩葉はクラスの人数が他より少ない八組に決定となった。周りに馴染めるか不安に思いながら、彩葉は教室に向かった。


「有明さん。自己紹介をお願いします」

「は、はい!」

 教卓の前に立って名前と一言「よろしく」と言うだけだと考えていたが、いざその場になると思い通りにならない。

「えっと……。あ、有明彩葉……と申します! よろっ、よろしく申し上げます!」

 彩葉は自分の顔がだんだん熱くなっていくのを感じる。

 周りの生徒も、震え声に合わせて口調がおかしかった事に耐えられず、クスクスと笑う声がちらほらと聞こえる。


「えーっと、有明さんの席は後ろに用意してあるから、そこに座って」

「あ、はい……」

 瀬戸川先生が指をさしたのは、窓際の一番後ろで一人席だった。

「えー、今日は……」

 彩葉が席を着いたのを確認すると、瀬戸川先生は今日の予定や、提出物のことについて話し始めた。


「……?」

 彩葉が羞恥心に押し潰されかけていると、前の席から手紙がまわってきた。

『どこの学校から来たの?』

 手紙はノートの切れ端に内容を書いて一回折っただけのもので、誰からのものかも解らず彩葉は戸惑った。

 どうしたものかと考えているうちにも、どんどん前の席から手紙が送られてきた。


「後は特にないので、これで終わりまーす」

 瀬戸川先生が話し終わった頃には、机の上には十数枚ほどの手紙が置かれていた。

「えーっと……」

 何もできずに呆然としていると、ガタッと音を立てて前の席の女の子が、椅子ごと体をこちらに向けた。

 女の子は長い茶髪を後ろの少し高い位置にまとめている。胸元に『松枝』と記された名札が、ちらりと見えた。


「……で?」

「え?」

「答えだよ」

「……え?」

「だーかーら! 質問の答え!」

 松江はキラキラと目を輝かせながら彩葉に顔を近づけた。

「あ! もしかして、これ全部、松枝さんの?」

 よく見てみると、どの手紙も同じような字をしている。

「あれ、解んなかった? あたし、松枝小鳥ね。皆からは『まっちゃん』って呼ばれてるから!」

「じ、じゃあ、小鳥ちゃんで」

 彩葉がそう言うと小鳥は何か不満そうに顔を顰めた。

「まっちゃんでいいのにー」

「え、でも……」

「あーっ!まっちゃん、もう有明さんと話してる!」

「フッフッフ……。皆、遅いのだよ。あたしは先生の話から、手紙を送っていたのだよ!」

「もー、早すぎでしょー」

 どうやら、小鳥はクラスの女子の中心人物らしく、二人の周りにはすぐに人が集まった。


「馴染みやすそうでよかった……」

 彩葉は、誰にも聞こえないようにポツリと呟いた。



「彩葉んちって、あたしんちと逆なんだね」

「そうみたいだね」

 放課後の校門までの間。小鳥は彩葉のことを呼び捨てするほどの仲になっていた。


「じゃあ、また明日!」

「うん、バイバーイ!」


 校門で別れると、彩葉は新しい帰宅路の景色を見た。朝は緊張で全く気にしなかったが、改めて見ると「都会だなぁ」としみじみ思う。前に住んでいた所は、周りがビルで囲まれているわけでもなければ、山や川などの自然に囲まれているわけでもない。どちらかと言うと田舎の方だった。比べてこの町、は彩葉が考えていたような所ではなかったものの、どちらかと言うと都会の方だった。


「……?」

 ふと人の気配がしちらっと後ろを見てみる。

「!」

 彩葉の後ろには、同じマンションの久代がいた。久代は学ランの上にダッフルコートを着て、マフラーを首元に巻いて顔をうずめていた。昨日とは違って眼鏡はかけていなかったが、綺麗な黒髪と少しだけ切れ目なのが特徴的ですぐに解った。


「「……」」


 彩葉のことを気遣ってか、または久代が嫌なだけなのか、久代は彩葉から距離を置いて後ろを歩いている。

 並木通りに差し掛かった所で、強めの冷たい風が勢いよく吹いた。

「あ!」

 風が吹いたかと思うと、彩葉のマフラーが風に飛ばされ、並木の枝に絡まってしまった。マフラーが絡まったのは、かなり高い枝で彩葉が背伸びをして手を伸ばしてもギリギリ届かなかった。

「どうしよう……」

 周りを見渡して台になるものを探してみるもこんな道端にちょうど良くあるわけがない。

「うっ、寒ぅ」

 コートを着ていてもマフラーが無いと首元が寒い。彩葉が困っていると隣に久代が近寄ってきた。すると久代は腕を伸ばして枝に引っかかったマフラーを丁寧に外した。

「……どうぞ」

「あっ、ありがとうございます!」


 その後は何も無かったかのように、マンションまで帰った。

 自室で彩葉は、未だに収まらない心の高鳴りで室内を右往左往していた。


「んあー……」

 最終的に昨日と同じ状況にたどり着き、ベッドに飛び込んだ。


「明日、小鳥ちゃんに相談してみようかな……」


                       ***


 久代くんは、見た目だけじゃなくて対応もイケメンだった。


登場人物紹介3


松枝 小鳥 (まつえ ことり)

 彩葉の友人。クラスの中心的人物。

 明るい性格で場を和ますのが得意。

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