フラッシュ・バック・ロックンロール/七
ユキコの侵攻を身構えながら制服に着替えたユウリは用意された和風の朝食をよくかんで食べていた。対面に座るユキコの前には食べ物はなく珈琲カップだけが置かれていてユキコは淹れたばかりの珈琲が冷めるのを頬杖付いて待っている。ユキコの視線は朝のニュースを映すテレビに向かっていた。ユウリもニュースを見ながら、しかしチラチラとホワイトアッシュのユキコの儚げで綺麗な、まるでファンタジィ・キネマに登場するエルフみたいな横顔を盗み見ていた。
ユキコが作ってくれた卵焼きは最高に甘かった。
「おかわりは?」ユウリの空っぽになったお椀を見てユキコは聞いてきた。
「いただきます」ユウリはお椀を差し出した。
ユキコは立ち上がり冷蔵庫の脇にある黒い炊飯器を開けてお椀にご飯をよそう。その黒い炊飯器はユキコが頻繁にユウリの家に来るようになってから彼女が勝手に買ってきたもので、十万円くらいして、圧力が強くって、お米をおいしく炊くことが出来るらしい。普通の炊飯器で炊いたお米との違いはユウリにはあんまり分からなかったけれど、今朝のご飯はおいしかった。ユウリは口元で手を合わせて言う。「ごちそうさまでした」
「おそまつさまでした」ユキコは優しく微笑みながら冷めた珈琲を飲んでいる。
緊張感はあったがいつもよりも穏やかな朝食を終え、やっぱりホワイトアッシュのユキコがいると調子狂うなぁって思いながら歯を磨いているといつもの時間にチャイムが鳴った。ユキコがインターフォンに出て「こなっちゃんが来たよぉ」とユウリを呼んだ。急いで口を濯いで髪に櫛を入れて鞄を持ってローファの爪先を叩いて履いてユウリは「いってきます」と家を飛び出した。
エレベータで一階まで降りてエントランスを出る。内側からオートロックを解除してインターフォンの前で待っていたコナツと合流した。
「おはよ」コナツは今日も満点の笑顔だった。
「おはようございます」ユウリも笑顔で返す。
そしてそれは一瞬の出来事だった。コナツは首を左右に振って周囲を確認してからユウリの腕に自分の腕を絡めて強く引っ張った。「んー」とコナツは小さく声を上げながらユウリの唇にキスをした。不意打ち。全くもって油断していた。想定していなかった。こんなの。朝からコナツとキスするなんて全く、期待もしていなかった。奇襲だよ。ずるいよ。完全にやられてしまっているんだ。
虚勢を張っている余裕なんてなかった。
敷居の向こうから急に飛んで来たロケットに激突された。
「さ、行くよ」コナツはユウリの腕を進行方向に強く引っ張って言う。
「うん」
コナツの侵攻に完全に制圧されてしまったユウリはまるで普通の恋する少女のように彼女の顔をまともに見れなくて下を向いて歩いたりするのでした。




