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業火紅蓮少女ブラフ/Flash Back Rock'n'Roll  作者: 枕木悠
A-SIDE 天球儀の役立たず(Flash Back Rock'n'Roll)
7/40

フラッシュ・バック・ロックンロール/六

 次の日、錦景市の朝の早い時間に目を覚まして同じベッドの中で眠るユキコの寝顔をぼーっと見て、わっ、とユウリが思ったことは。

 昨日の夜はなんて恥ずかしいことをしてしまったんだ! っていうことでした。

 ユウリは布団の中で寝返りをうち、ユキコに背中を向けて昨日の夜にあったことを思い出していた。思い出したくはなかったが、もう一度深い眠りに落ちようと思ったが、勝手に思い出されて恥ずかしがらせたんだ。徐々にユウリとユキコの間であった昨夜の出来事の記憶映像が頭の中で鮮明さを増してくる。最低最悪に恥ずかしい記憶映像がくっきりはっきり再生される。ユキコとエッチすることは結局なかったけれど、同じベッドで眠るのはいつものことだ、ユウリのベッドはダブルサイズだから女の子ならば平気で三人は眠れてしまう大きさだ、とにかくいくらホワイトアッシュに変身したユキコが魅力的だったとは言え、あんな風に自ら誘惑を仕掛けてしまうなんて。

 そう、誘惑。

 紛れもなくあれは誘惑だった!

 私はユキコを誘惑しようとしたんだ!

 最低だ! 最低だ! 最低だ!

 いくらホワイトアッシュのユキコが可愛いかったからって。

 どれほどホワイトアッシュのユキコが魅力的で眩惑されちゃったからって。

 ユキコを誘惑するなんて。

 あってはならない事象だ。

 不覚、不覚、不覚、不覚、不覚、不覚、不覚……。

 ユウリは悶々としながら何度も自分の行動を恥じた。昨夜の自分は初めてスタジオに行って浮かれていたんだ。それに疲れてもいたんだ。ユキコのカレーはおいしかった。そのスパイスの作用もきっとあったんだと思う。昨夜のユウリはなんてたって、不覚だった。だからしょうがなかったんだ。

 いや、しょうがなかったなんてことないでしょうに!

「!?」

 ユウリがビクッと驚いたのは、突然、ユキコに後ろから抱き締められたからだ。「……ユウリ、ユウリ、ユウリ」壊れちゃったんじゃないかって思うくらい、ユキコの可愛い寝言が聞こえてユウリはほっと息を吐く。あれ、どうして安心しているんだろう? ああ、多分、このまま襲われたら、多分、拒絶出来ないと思うからだ。拒絶しないと思うから。だから凝り固まったような息を吐いたんだ。

 ユウリは、ユキコとの関係を変えたくないんだ。

 例えているなら現在進行の平行関係。付かず離れずのマグネット、シーソのギッタンバッコン、決して正面から衝突しないベーゴマ……?。いまいち例えに相応しい比喩は見つからないけれど、そういった微妙で絶妙ではないが奇妙ではないという風な関係が、ちょうどいいと思っているんだ。

 ユキコだって、多分、そう思っているはずだ。

 ユキコが家に勝手に来ることってユウリにしてみたら少し鬱陶しい。ヒステリックなことがあったときなんてなおさらだ。ユウリはそれを態度に現すし、素直にそれを言葉にしてユキコにぶつける。ユキコはしかし、ユウリに鬱陶しいって言われても一緒にご飯を食べるし、ユウリのヒステリック加減に関わらずとりとめのないことをしゃべるし、怒鳴ったら怒鳴り返してくることもあるし、でも結局同じベッドで眠ることもあるし、今みたいにユキコに抱き締められたまま一緒の朝を迎えることもある、っていう状態がどこかなんだかなんとなく、ユウリの平穏な日常だから、傍から見れば随分刺々しい関係かもしれないって思うけど、とりあえずはそんな関係にユウリは納得しているし、安心しているんだと思うんだ。

 ホワイトアッシュのユキコは素敵だけど、そういう観点から見れば、ちょっと不都合なことではある。

 ユウリは抱き締められたまま寝返りを打ってユキコの顔を間近で見る。ホワイトアッシュのユキコの寝顔は猛烈に可愛い。見つめていて目を離せなくなった。

 ユウリによく似ているけれど、ちょっと違う、やっぱり違う、そんな十三コ年上の叔母に。

 揺らいでしまう。

 動じてしまう。

 やっぱり眩惑されてしまう。

 それは駄目。

 不覚、不覚、不覚……。

 しかしユウリは吸い込まれるようにユキコを見つめ続けている。

 そのときだった。

 ユキコの双眸がパッチリと開いてユウリをそのレンズに映して、ユキコにしては穏やかに微笑んだ。「おはよう、ユウリ」

「お、……おはようございます」

「ふあぁ、」ユキコは銀色の猫みたいに小さく欠伸をした。「今何時?」

「錦景市は朝の六時」ユウリは視線を枕元の時計にやりながら言った。

「朝ご飯はどうする?」片目をウインクしたみたいに閉じたユキコが聞いてくる。

「食べたい」ホワイトアッシュにやっぱり緊張していて、ユウリの口はうまく動かなくって片言だった。

「了解」ユキコはユウリの前髪を指で分けて、そして一連の動作、という具合でユウリの頬に軽くキスした。

 ユキコはどことなく満足げにユウリに優しく微笑み掛けて、そしてベッドを出てスリッパに足を入れて寝室を出ていった。

 ユウリはキスされた右頬を触ってユキコの微笑の意味とはなんだろうって考えた。

 すんなりとは、的確な回答は出てこない。

 ただ。

 昨夜、ユウリがユキコを誘惑したから何かが変わってしまったのではないかって思った。そんな錦景市の夜だったのではないか。ホワイトアッシュのユキコのせいで変わってしまったのだ。

 何かが。

 何かがってそれはうまく説明出来ないけれど。

 なんでしょう?

 とりあえず。

 強く嫌だなって思うのは。

 いいえ。

 明確に「嫌!」という感情にはならないんだけれど。

 体にべったりと張り付いてくるような決して心地よくはない予感はなんとなくあってそれは。

 ユキコはユウリの心への侵攻を企んでいるんじゃないかってことなんです。


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