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業火紅蓮少女ブラフ/Flash Back Rock'n'Roll  作者: 枕木悠
A-SIDE 天球儀の役立たず(Flash Back Rock'n'Roll)
4/40

フラッシュ・バック・ロックンロール/三

 次の日、春日中学校のお昼休みの屋上に昇ってユウリは、例によって親友の新島コナツとお弁当を食べていた。退屈な学校の時間の中で最も有意義な時間と言っていいだろう。二人は十一月のちょっと肌寒い晴天の空の下、コンクリートの上にシートを敷き、おしゃべりに華を咲かせていた。話題は昨日のマクドナルドでの出来事。その中でも特に、どういうわけか気になっている、コウサクのことが話題の中心だった。

「ああ、確かに鷹村君って女の子みたいだよね、」コナツは通常営業の笑顔で言う。「可愛い顔してるよね、リスみたいな」

「うん、そうでしょ、私、鷹村君の可愛さが、ちょっと衝撃的で、」ユウリは自分のお弁当箱の中の唐揚げをコナツに食べさせながら言う。「ちょっと、ぼんやりしちゃったよ、こんな男が学校にいたんだって」

「うん、」コナツは唐揚げを呑み込んで言う。「ずっと、鷹村君はいたよ、本当にユウリは他人に興味がないんだから、しょうがないねぇ、っていうか、何? ユウリ、まさか鷹村君のことが好きになっちゃったの?」

「莫迦、そういうんじゃなくって、鷹村君みたいな男って珍しいじゃない、珍しいのよ、だから色々考えてしまうんだって、」ユウリは言って、からかうコナツの笑顔を睨んだ。「それに私が好きなのはコナツだって、知ってるくせに、莫迦、私が鷹村君のことを好きになるはずがないじゃない」

「あははっ、そっか、」コナツはオーバに笑って自分の後頭部を擦る。「ごめん、ごめん」

「いつになったら、キスさせてくれるわけ?」ユウリは唐揚げの油で濡れたコナツの魅力的な唇をまっすぐに見つめながら言う。

「え、キス? 別にいつだっていいけど、」コナツは首を傾けて彼女が一層魅力的に見える角度を作った。「なんなら今、しましょうか?」

 不覚にもユウリの心臓の動きは早くなっている。「え、今?」と問い返す声は震えていたし、ひっくり返っていた。予期せぬ回答だったのだ。別に毎日、キスさせてと言い続けていたわけじゃないし、毎日コナツのユウリへの気持ちを確かめていたわけじゃないけれど、今だって拒絶されることを前提に聞いたんだ、夏から初秋にかけて色々とあってコナツは絶対にユウリとはキスしてくれないだろうって思っていたから、とにかく、まさか認可が降りるなんて思わなかったのだ。しかも、今に。「い、今、してくれるの?」

「何度も聞かないでよ、」コナツの瞳は濡れていて頬はうっすらとピンク色に染まっている。「何度も聞いたらしてあげなーい、んふふっ」

「……分かりました」ユウリは頷き何度も確かめることを止めた。

 コナツは食べ終わったお弁当箱に蓋をして、自分の唇を舐めてから、ユウリの肩に手を置き、ユウリが心の準備をするのを待たずに、唇に強くキスした。

 額が優しくぶつかった。

 唇が離れてから。

 ユウリはとても懐かしい気持ちになっていた。

 センチメンタルに浸っている。

 小さな頃、二人はふざけて何度もキスをした。

 その淡い色の記憶がフラッシュ・バックして体を走ったんだ。

 そうそう。

 コナツのキスってちょっと強引なんだよね。

 いつの間にかしなくなったのは、女の子同士でキスをするのは普通じゃないってことを知ってしまったから。だから中学三年生になって、あの頃みたいに何度もキスをするためには、コナツに普通じゃないことを受け入れてもらわなくっちゃいけなかったんだ。コナツはユウリの気持ちを受け入れてくれた。それはあの頃と決定的に違うことだ。二人はあの頃のままじゃないってことだ。

 嬉しい。

 純粋に嬉しい。

 コナツに抱いていた様々な疑心とか、気がかりとか、何やら漠然とした靄のようなものはユウリの脳ミソから瞬間的に消去された。

 嬉しくって涙がこぼれそう。

 目が熱い。

「あ、ごめん、痛かった?」コナツはユウリの涙を見て勘違いして慌てていた。「慣れてないから力の加減が分からなかったんだよ、ごめんよぉ」

「ううん、違うの、そうじゃないの、嬉しいの、」ユウリは首を横に強く振り、胸の奥から込み上げて来るものを抑えながら必死で声を出してコナツに気持ちを伝えようと思った。「嬉しくって泣いちゃったの」

「泣くようなことなの?」コナツはユウリの顔の近くで笑っている。

「泣くようなことなの、」ユウリは平然と笑っているコナツを睨む。「ずっと好きだったんだから」

「うん、知ってる、」コナツはユウリの頭を優しく撫でてくれる。「分かってる、よしよし」

「ごめんね」実はあなたの心を疑っていたのよ。

「謝らなくってよい」

「コナツのことが好き」ユウリは歯切れよく言った。

「うん、」コナツは頷き照れた風に笑う。「うん」

「コナツも私のことが好きって言って」

「え、恥ずかしいな」

「言って」

「えー」

「お願い、」ユウリは自分の唇の前で五指を組み可愛い声を出した。「お願いします」

「……全く、可愛い声出しやがって、うん、分かった、言うよ、言ったげる、」コナツは自分の髪に指を入れて顔をピンク色にして言った。「ユウリのことが好き」

「きゃあ!」ユウリは歓喜の悲鳴を上げた。「きゃあ! きゃあ!」

「どうして絶叫?」

「コナツ!」ユウリはコナツのことをぎゅっと抱き締めた。「コナツ!」

「はいはい、っていうか、苦しい」

「コナツ、ねぇ、コナツ、」ユウリはコナツの耳元で言う。「……きゃ、今日の夜、私の家でエッチしませんか?」

 コナツは笑顔を作った。

 だからユウリは一瞬、エッチ出来ると思ってしまった。

 しかし。

「エッチはしません、」コナツはハッキリと拒絶した。「だってユウリ、私たちまだ、中学生だよ」

 コナツは小悪魔だ。っていうか、悪魔だ。キスしてくれたのに、ユウリのことを好きだって言ったのに、エッチしてくれないなんて悪魔だ。最低だ。ユウリの脳ミソはコナツとセックスしたいってことしか考えられなくなる。コナツへの愛は猛烈に燃え上がっている。情熱をストレートに彼女の体にぶつけたい。午後の理科の授業はそのことばかり考えていて、山吹に「おい、何、ぼうっとしてんだ、こらっ、」と教科書で軽く頭を叩かれるまでユウリのノートは白いままだった。「ノートくらい取っとけ、莫迦野郎」

 山吹に頭を叩かれたユウリを見て、コナツはクスクスと笑っていた。

 そんなのだって、なんだって、コナツの全てが愛おしくって、いつもなら頭を叩いた山吹に反抗しているところだったがユウリは素直にシャーペンを手にし、ノートに板書を書き写した。


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