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エピローグ/三

 アイナ先生の占いは本当だと思う。

 錦景市は十二月最初の土曜日。

 私とコナツはグリーンドームの隣にある錦景公園という小さな遊園地のメリーゴーランドに揺られながらほろ苦い珈琲を楽しんだ。その瞬間はアイナ先生によって予言されていたのだと、メリーゴーランドの向かいにあるベンチに座ってから私は気付いた。

 決着のその時は少し前にズレて、予言されていたのだ。

 私は、錦景公園でずっと笑いっぱなしのコナツに向かって口を開いた。

 汽笛が高く鳴って止まっていたメリーゴーランドが回転を再開する。

 それに連動して始まる調子はずれのミュージックが私の声に混ざってしまったからか、コナツの反応は鈍かった。

「……え? 今、ユウリは今、なんて言った?」

「もう止めよう、」私は音楽に混ざって消えないように歯切れよく発声した。「もう止めようよ、もう止めようって言ったの、コナツが無理してるの、全部、分かってる、だから止めようって」

「……なんのこと?」コナツは笑顔を絶やさない。「何を、止めるの?」

「分かってるから、とぼけないで、」私はコナツの目をまっすぐに見つめ続けた。綺麗な瞳が反射する光は微動していた。「今のコナツを見ていると、辛いの、ごめんね、全部私がそうしたいって、望んでいたことのはずなのにね」

「……つ、辛いのって、ごめんねって、急にそんなこと言われたって、」コナツは笑顔を消した。本当の顔を見せる。こっちの顔の方が私は好き。「今、止めたら、」コナツは私の心を全部分かっているみたいに、違う、みたいじゃなくて、全部分かっているんだ、声を震わせて泣いてしまった。「全部、台無しじゃないの、嫌よ、そんなの、辛いとか言わないでよ、ユウリは、ユウリは私だけのユウリでいられないの?」

「……ごめんね、私、好きな人が出来た、好きな人が出来たから、コナツだけのユウリではいられないの」

「何よ、それ、信じられない、莫迦じゃないの、そんなこと、許されると思っているの?」

「コナツに許して欲しいなんて思わない、だから精一杯謝っているつもり」

「精一杯謝っているつもりって、なんなのよ」

「ごめんね」

「呪ってやる」コナツは涙目で私を睨んだ。

「呪われもいい」

「達観している風に言わないで、すっごくムカつく」

「ごめん、そんなつもりはないんだけど」

「私のことが凄く好きなんでしょ?」

「凄く好き、今だって凄く好き」

「だったら止めるなんて言わないで、私だってユウリのこと大好きよ、一番好きなのは私だよ」

「でもコナツよりも好きな人が出来ちゃったから」

「それって嘘でしょ、」コナツはユウリの嘘を簡単に見抜いてしまっていた。「もっともな理由で私のことを拒絶しないで、ちゃんとした理由を話して」

「嘘じゃないよ、本当よ」

 そっけなく言って私はベンチを立った。

 これ以上ここにいたら私はコナツを抱き締めてキスをすると思ったから。

「行かないでよ」コナツの手が私のモッズ・コートの魚の尻尾を掴んだ。

 私はそれに構わず歩き出す。

 尻尾はコナツの力ない手の中をすり抜けた。

 しばらく歩いて振り返ればコナツはベンチから立ち上がらずに顔を覆って泣いていた。

 私は早足で錦景公園の敷地から出て、冬の灰色の曇り空を見て泣く。

 今日はとても寒い日。

 冷たい雨が降りそうだ。

 だからこの目元の熱と絶望きっとすぐに冷めると思う。

 ああ。

 私は絶望していたんだな。

 コナツとの恋が、叶わぬ恋だと分かってしまったから。

 私だって絶望してもいいですよね?

「ああ、なんて、苦しいの」て苦しい息で手を温めながら呟いたっていいですよね?

 そして。

 私の足はアイナの家に向いた。

 アイナの家の傍にあるタワー・レコードで店内を少し見て回り、意味もなくコレクチブ・ロウテイションのジャケットをファーストから全部確認して、覚悟を決めた。

 アイナの家の受付カウンタの前に私は立つ。

 店先には私を恐がらせる、白いオウムがいた。

 私が近付くとそいつは透き通った黒い眼で私の姿を捉えて羽根を小刻みに動かし騒ぎ始めた。

「ひ、ひぃ!」私は悲鳴を上げる。オウムが何か言っているが、なんて言っているか、恐怖によって全く分からなかった。分からないけれどとにかくなんだか人間の言葉を発して騒いでいる。私の足は恐怖に竦んでいた。けれど受付カウンタには以前来た時と同じように彼女がいたから、彼女が「こらこら、騒ぐんじゃないよ」とおしゃべりオウムを黙らせてくれたから、私は逃げずにいられた。

 私は逃げなかった。

 覚悟を決めたんだ。

「……あ、あの、」私の声はひっくり返っていた。けれど虚勢を張って、おしゃべりオウムのことなんて全く気にしていないという笑顔を装い言った。「あの、じ、実は今日は、お願いがあって来ました」

「ああ、うん、」派手な紫色を身に纏った彼女は頬杖付いたまま私にニヤリと不敵に微笑み言った。「そろそろ来るんじゃないかって思ってたよ」

「え? い、今なんて?」

「私はキャリコ、」彼女は右手をこちらに差し出しチカリと笑う。「変な名前だろ? でも本名なんだ、三色琉金と書いてキャリコと読みます、そういう名前の可愛い金魚がいるんですよね」

                                   了


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