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業火紅蓮少女ブラフ/Flash Back Rock'n'Roll  作者: 枕木悠
B-SIDE 天体世界望遠機械の線描(Sister,Find Out the Twilight View)
34/40

シスタ、ファウンダウト・ザ・トワイライト・ビュウ/十九

 コウちゃんのことをマアヤがどう評価したか、ということについてユウリはハッキリとは分からなかった。しかし、マアヤは確かにコウちゃんの姿を見て衝撃を受けたような目を僅かに見せた。ユウリはそれを見逃さなかった。ユウリはコウサクの同志だ。そして同志コウサクが好きな男がマサヤな訳だから、マサヤがコウサクの変身に対してどのような反応を見せるか、というのは今後マサヤに攻撃を仕掛けるに当たって確かめておかなければいけないことだった。マサヤはコウサクのことを好きになるべきだと、ユウリは思う。同志の恋が叶って欲しい。でもこれはコウサクへの単純な優しさではなくって、ユウリの願望でもある。ユウリの心には、強い願望が燻っていた。どうか上手くいって、と強く思っている。どうして私はこんな風に人の未来を考えているのだろうって、考えればすぐに思い当たることがある。

 コナツの姿形が脳裏を横切った。

 彼女に警戒しているんだわ。

 あの人と上手くいっていないのでユウリは多分、……倒錯。

 幸せを分けて欲しいと思っている。

 いいえ。

 そんなに穏やかなものじゃない。

 あなたの幸せが欲しい。

 飢えている。

 喉が渇いている。

 コーラを飲んだ。

 氷が解けて薄まったコーラだった。

 こういう味は、体中の炎症を悪化させてしまう、いけない味だ。

 熱になる。

「……どうかな? 内藤君、変じゃない?」コウサクは女装を終えて、まるで初めて女の子の服を纏いウィッグを被ったという風なぎこちなさを演じてマサヤに聞いた。

 マアヤに聞いたんだ。

 マアヤは長くなったまつ毛を大きく動かして二度瞬きをしてから「すげぇなぁ、」と感心した風に息を漏らしながら言った。「いや、鷹村なら似合うだろうなって思ってたけど、ここまでとはなぁ、全然変じゃない、違和感ゼロ、っていうか女子にしか見えないよ、シオリちゃんにそっくりだし、並んでみてよ、ほらそっくり、君たち双子じゃないの? っていうくらいそっくり」

 コウサクは隣に座るシオリと目を合わせた。

 そして二人は顔を見合わせて成功を祝うように体を小刻みに震わせて笑った。

 可愛い二人。

 平和な情景。

 そう思うのはここにはユウリを警戒させるものがないから。

 男もいない。

「でもすげぇなぁ、」マアヤは芸術作品を見るようにソファに並んで座る可愛い双子をじっくりと観察している。「鷹村がこんな風になっちゃうんだなぁ、すげぇなぁ」

「あんまりジロジロ見ないでよ、内藤君、なんか、恥ずかしい」コウちゃんは好きな人に見つめられて照れてしまっていて顔がピンク色になっていた。

「恥ずかしいのはこっちだよ、そんな完璧な女装見せられたら自分の不完全さが恥ずかしいっすよ」

「あら、マアヤも十分に可愛いじゃない?」

 ユウリはマアヤのブラック・ロング・ストレートを触り言って曲をカラオケの機械に入れた。「女の子だけになったところで、さぁ、盛り上がって参りましょう」

 ユウリが入れたのは踊れるダンス・ナンバ、フラテリスのチェルシ・ダガー。

 ユウリたちはトュルル、トュルルのリズムを飛び跳ねて合唱。

 それから四人の少女は、錦景市の夜の七時まで踊り狂ったのでした。

 帰りのカラオケ・ボックスの女子トイレ。

 鏡の前でユウリとシオリは乱れた髪型を直していた。

 そのとき、シオリは急に、鏡越しにユウリのことをストレートに見た。

「今日は本当に楽しい土曜日でした」

「私も楽しかったよ」

「本当にありがとうございました」シオリは姿勢を正してユウリにお辞儀をした。

「なによ、こんな風にお礼を言われる筋合いなんてないから、気にしないで」

「優しいんですね」シオリは顔を上げて前髪を手で横に流して言う。

「優しいなんて、」ユウリは苦笑する。「違うわ」

 欲望に忠実なだけなんですから。

 優しいなんて違う。

 間違った認識。

 あなたは人をまだ見る目がない幼い少女なのね。

「ううん、」シオリは首を横に大きく振ってまた髪を乱す。「すっごく優しいです、ユウリちゃんみたいに優しい人を私は他に知りません、コウちゃんがユウリちゃんと出会えて本当によかった、あんなに楽しそうなコウちゃん、私、初めて見たんです、心の底から幸せそうで、本当に、涙が出るくらい、私は嬉しい、嬉しくって、すっごく嬉しくって、」シオリは体を震わせて泣いていた。「嬉しいんです」

 ユウリは彼女の熱のある泣き顔を見て気付く。いや、そう気付くのは今が初めてじゃない。最初にシオリに会った時からユウリはなんとなく、気付いていた。シオリには憂いがあった。その憂いを彼女は必死に明るさを発電して隠していた。でもその明るさは月のない夜の外灯のように弱々しいものだった。シオリは自分に纏った暗闇を隠しきれていなかったのだ。

 目を凝らしてよく見れば分かるよ。

 ユウリはシオリの体を優しく抱き締めて頭を撫でた。「コウちゃんのことが好きだったんだね」

 シオリは目元をユウリの肩に擦り付けて頷いた。そして僅かに落ち着きを取り戻してからユウリと体を離して口を小さく動かした。「……ユウリちゃんに約束して欲しいんです」

 約束?

「コウちゃんのことを絶対に裏切らないって、約束してくれますか?」

「うん、もちろんだよ」

 ユウリはすぐに頷きシオリに微笑んで見せた。するとシオリも笑顔になった。ユウリはシオリの可愛い頬に短いキスをする。シオリは少しびっくりしていたが、嫌な顔は見せなかった。すぐに照れた風な優しい笑顔に戻り、甘えるようにユウリの腕に自分の腕を絡めた。シオリはユウリに対する一切の警戒心を抱いていない。ユウリは客観的に、シオリのことが心配になる。あなたが腕を絡めているのは、業火紅蓮少女なんだよ。

 熱いでしょ?

 この熱に気付かないのはどうかと思うよ。

 約束なんてして危険を考えることを忘れて愚かになってあなたは幸せなの?

 歪んでいるのね。

 大丈夫、一緒よ、今は。

 今は、問題がある。

 でもね。

 きっと純粋になれるその時が来たら燃やすと思う。

 燃やすわ。

 多分、絶対。

 そんな風に視界を歪ませるレンズなのだとしたら。


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