シスタ、ファウンダウト・ザ・トワイライト・ビュウ/十八
土曜日の午後の一時、錦景市駅前のトリケラトプスのオブジェの前にはマサヤとコウサクと、それからコウサクの従妹のシオリも待っていた。マサヤを素敵な女装男子にするためにユウリはコウサクにシオリも連れてくるようにお願いしていた。土曜日のシオリはニワトリのマークが素敵なルコックのジャージ姿だった。聞けばお昼まで部活をしていて終わってすぐに駆けつけてくれたみたいだった。ユウリはそのことにお礼を言って、四人はとりあえず行きつけのマクドナルドに向かった。そしてクウォータ・パウンダのセットを食べながらマサヤをどんな女装男子にするかについて話し合った。話し合いの中心はすでにコウサクをコウちゃんに変身させた実績があるシオリでマサヤではなかった。シオリは真剣な目をしてマサヤの顔の造形と体の骨格を分析しながら、内藤さんには黒髪のストレートが似合うと思います、長さは腰くらいあっても全然変じゃない、ステージ衣装は、そうですね、肩幅も広いし筋肉質だからそれを隠すためには軽い生地で体にはピタッとフィットするフリルが多めの紺色のドレスなんかがいいと思いますね、ウエストはキュッと細いベルトで締めたらシルエットもグッと女性らしくなると思います、肌が黒いのが気になりますけど、ええ、それを利用しましょう、ファンデは薄く塗って、唇には明るいピンクのグロスを塗って、つけまつげをして女っぽさを目元に出したら完璧だと思いますよ、と笑顔で言った。「あ、それから名前は、マアヤちゃん、なんてどうですか?」
「え、マアヤちゃん?」マサヤの顔は引きつっていた。「っていうか、名前なんていらないでしょ」
「いいじゃない、マアヤ、」ユウリは不敵に笑ってマサヤを見た。「今日から私はあんたを、マアヤと呼ぶわ」
「呼ぶなよ」
「マアヤ、」ユウリは言ってクスリと笑う。「早くマアヤに変身したあんたが見てみたいわ、あははっ」
「よせって」マサヤは怒ったみたいにユウリから視線を逸らしコーラを一気に飲み干した。
「怒ったの?」
「怒ってないけど、」マアヤと命名されたマサヤはこの期に及んでも、まだ自分が女装男子に変身することの覚悟が出来ていないらしい。不機嫌そうな横顔。この事態に納得がいかない、という風な顔。そして少し酷いことを言ったら今にも泣き出しそうな顔。そんな顔をするマサヤを横にするとユウリはとても愉快な気分になる。先天的にユウリは男に対してSなのだ。「怒ってないけど、なんていうか、ユウリは俺が女装したら面白いわけ?」
「面白いわよ」
「どれくらい面白いの?」
「すっごく面白いと思う」ユウリは自分の右手の爪を見ながら言う。
「くそぉ、すっごく綺麗になってやる、」マサヤは強く決意した目をシオリに向けて言った。「シオリちゃん、俺をすっごく綺麗にしてよ、ユウリが笑えないくらいに綺麗にしてよ、お願いしますよ」
「はい、」シオリは首を僅かに傾けて素敵な笑顔で言った。「善処します」
結論から言えば、ユウリはマサヤの変身した姿を見て涙が出るくらい爆笑した。綺麗でないことはなかった。むしろシオリの魔法によってマサヤは凄く綺麗になった。マアヤは凄く綺麗だった。ユウリはマサヤとマアヤの、そのあまりにも大きなギャップに笑ったのだ。シオリが最初から着せたがっていて紺色のドレスはマアヤによく似合っていた。百貨店を巡り歩き衣装とウィッグを購入してカラオケボックスに入りそこでマサヤは服を脱がされてシオリに化粧を施され変身させられたわけだが徐々に男が女になっていく過程を見ていると、ユウリは最高に幻想的な気分になれた。ユウリは涙が出るくらい爆笑してから、自分のことを爆笑されて不服そうなマアヤに右手を差出し言った。「これから仲良くしようね、可愛いマアヤ」
マアヤは複雑な表情でユウリと握手を交わした。「……俺って可愛いの?」
「可愛いわよ」
「あんだけ笑った癖によく言うよ、あー、もう何も信じられねぇ」
「いいね、その姿で男言葉っていうのも、いいね、チャームポイントになるね」
「チャームポイントって、」マアヤは苦笑して手鏡に映る自分の姿を確認している。「鷹村、どう思うよ?」
「綺麗だよ」素直にそう言うコウサクの視線は少し熱を帯びていた。
それはマアヤにも伝わったのだろう。マアヤはコウサクから少し身を引き、口を斜めにして言った。「へ、変な気、起こすなよ」
「変な気って?」コウサクはとぼけてから、そしてチョコレートパフェを一口食べてシャツのボタンを外した。「それじゃあ次は、僕の番だね」




