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業火紅蓮少女ブラフ/Flash Back Rock'n'Roll  作者: 枕木悠
A-SIDE 天球儀の役立たず(Flash Back Rock'n'Roll)
3/40

フラッシュ・バック・ロックンロール/二

 夜の七時を過ぎてニ十分後に、山吹とコウサクはマクドナルドに姿を見せた。山吹はオーダをコウサクに任せて「ユウリとマサヤが黙々とチキンナゲットを食べているテーブル席に先に来た。「お待たせ、遅れて悪かったな」

「遅れてって、どれだけ遅刻したと思ってるの、」ユウリは山吹を睨み見て、そして驚いて声を上げた。「なんでサングラスなんてしてんのっ?」

「放課後はロックンローラだからな」

 山吹は黒いアディダスのジャージにリーバイスのジーンズに、そして今はいつもの水色の太いフレームの眼鏡じゃなくて光を一切反射しない真っ黒なサングラスを掛けていた。ロックンローラには見えなかったが、薄ら生える無精ひげも相まってロンドンのパブで毎晩酒を飲んで煙草を吸って薬をやったり恐喝をしたり強盗をしたりしていそうなチンピラには見えた。とにかくユウリは山吹のサングラスがツボで手を叩いて笑った。「あははっ、なんだよ、それ、ロックンローラなんかじゃないよ、ただのチンピラだよ、あははっ、だっせぇ」

「そんなに笑うなよ、莫迦野郎、」山吹は全く動じずに言う。「そんなことよりお隣に座ってもよろしいですか、お嬢さん?」

「ええ、どうぞ、」ユウリは笑い過ぎて出てきた涙を指で擦りながら頷いた。「お座りになって」

「煙草吸っていい?」山吹はポケットから煙草とライタを取り出しながらユウリとマサヤに聞く。

「いや、ここ禁煙席ですって」マサヤが言う。

「ああ、そうか、」山吹はテーブルの端にある禁煙のマークを見て口に咥えていた煙草を箱に戻しライタの火を消した。「じゃあ、しょうがないな」

「移動しますか?」マサヤは聞く。

「いいよ、中学生を喫煙席の方に連れて行くほど俺は愚かじゃないよ、」山吹の口元は愉快そうに微笑んでいる。「それで話は進んでるの?」

 話というのは十一月の終わりに春日中学校で開催される学園祭のライブのことだった。昨日、ユウリはマサヤに、一緒にバンドを組んで学園祭のライブに出ないかと誘われた。マサヤは以前からコウサクとそしてなぜか担任の山吹と三人でバンドを組み活動をしていて、そのメンバにユウリも加わって欲しいとのことだった。ユウリはそれを了承して、今日はライブについての初めての打ち合わせのためにマクドナルドに四人は集まったのだった。

「ええ、とりあえずやりたいって曲だけリストアップしてみたんですけど、」マサヤは達筆な文字が並んだ大学ノートを山吹に見せた。マサヤの字は意外にも綺麗だった。「まあ、全部國丸がやりたいってやつですけどね」

「私が全部決めていいって言ったのはあんただよ、それを先に条件として提示したのは内藤だよ」ユウリはマサヤを睨み付けて早口で言った。

「分かってるよ、だから、お、怒るなって」

「怒ってねぇよ、」ユウリはまたテーブルの下でマサヤの膝を蹴った。マサヤが「あふんっ」と変な声を出して苦悶の顔をしたのでユウリは叱責する。「変な声出すんじゃねぇよっ、莫迦野郎っ」

「見事にコレクチブ・ロウテイションの曲ばっかりだね、」山吹はさすがにサングラスをはずしてノートのリストを見て曖昧に頷きながら言った。「國丸はコレクチブ・ロウテイションが好きだったのか、意外だな」

「意外ってなんだよ、私はコレクチブ・ロウテイションのことを愛しているんだから、人のことを簡単に意外とか言うんじゃねぇよ、お前教師だろ」

「ごめんなさい、」山吹は笑いながら謝り笑いながら忠告した。「っていうか、お前いい加減に俺に敬語使えよな、お前生徒だろ」

「えー、面倒臭い、敬語なんて、」ユウリは口をアヒルみたいにして言った。「山吹に敬語を使う価値なんてないでしょ」

「まあ、確かに異常にかしこまられても、こっちも面倒臭いけどなぁ」山吹は腕を組み頷いた。

「そうだよ、面倒臭いよ、敬語とか」

「でも礼儀にうるさい人には気を付けなさいよぉ、」山吹は急に口調を変えてきて歳を取って何かを悟った風に言う。「俺もさ、こういう性格だろ、砕けてるっつうか、ざっくばらんっていうか、なんでも受け入れちゃうっていうか、とにかくこういう俺の性格が生理的に受け付けない、みたいな頭が固いおっさんがいるのも事実なのよ、だから國丸も今のうちから気を付けなくっちゃ十年後ぐらいに苦労するよぉ」

「ご忠告ありがとうございます」ユウリは上品に言って、膝の上に三つ指合わせて軽く山吹に向かって頭を下げた。

「そうそう、やれば出来るじゃない」

「そうなんです、私、やれば出来る女なんです、」ユウリは微笑みを浮かべて言う。「だから今のうちから気を付けなくってもいいんです」

「あははっ、國丸ってやっぱり面白いよな」

「あ、何が?」ユウリは微笑みを消して山吹のことを睨み付ける。

「さあな、」山吹はユウリの睨み付ける攻撃をすらりと躱す。「まあ、いいんじゃないの?」

「だから何がだよっ」

 そのタイミングだった。

「お待たせしました、」という麗らかな男子のソプラノとともにハンバーガとポテトとドリンクが乗ったトレーを両手で持ったコウサクがテーブルにやって来てマサヤの隣に座った。そして「おつりです、」と山吹に小銭を渡した。「いつも奢ってもらっちゃって、すいません、先生」

 コウサクっていう、小さな男子のソプラノ声は女の子の声にも聞こえた。髪の毛はそれほど長くなくて耳も出しているけれどさらさらとしたストレートで顔立ちは女の子みたいで目はクリッとしていてリスみたいだとユウリは思った。華奢で、おそらく成長を見込んで大きいものを選んだであろうブレザのサイズは入学式から二年半経った今でもぶかぶかだった。そしてまるで女の子みたいにコウサクの肌は白く頬はうっすらとピンク色だった。こんな男子がいたのかとユウリは少し衝撃的だった。

「あ、あの、」コウサクの視線はユウリに向けられていて声は緊張していた。「初めまして、四組の鷹村コウサクです、えっと、ドラムしてます」

「……あ、初めまして、」ユウリの反応は鈍かった。コウサクの衝撃にまだ揺れていた。とりあえず頬杖付くのを止めてまっすぐに彼のことを見て言った。「二組の國丸ユウリです」

「よろしくお願いします」コウサクはこちらに手を差し出した。

「よろしくお願いします」ユウリはコウサクと握手を交わした。

 コウサクの手は女の子の手に見えた。

「おい、どうして鷹村には敬語なんだ?」

「え、敬語って何のこと?」ユウリは先ほどの敬語についてのやりとりのことなんて忘れていた。それくらい、なんていうか、ちょっと新しい風を感じていた。

 初めての会同ではとりあえず演奏する四曲と次の練習の日程と、それからラブ・フィフティーンというダサい名前を変更するということが決められた。演奏する四曲のうち三曲はユウリが決めた。そのピックアップした三曲について山吹は「これは相当練習しなきゃいけないな」って感想を漏らした。「内藤、出来そうか?」

「が、頑張ります」マサヤは途方に暮れてしまいそうなのを必死でこらえて頷いた。コレクチブ・ロウテイションの曲ってシンプルに聞こえるけれど、よく聞いてみれば複雑なことをしているものが多くて複雑なコード進行は当たり前で音源を聞いても何をしているのか解読出来ないものも沢山あるのだ。ユウリは難解さを基準に選んだわけではないが、やるならこれと思って選んだら、結果的に難解な三曲を選んでしまったのだ。

 そして残りの一曲はコウサクが決めた。その一曲がフラッシュ・バック・ロックンロール。その曲はユウリが選らんだ三曲に比べたら比較的簡単で、そしてコレクチブ・ロウテイションのドラムの鏑矢リホが唯一リードボーカルを取っている曲だった。それってつまりコウサクも歌いたいってことだろうと思ってユウリがそれを口にすれば、コウサクは恥ずかしそうに頷いた。

「うん、ごめん、國丸さん、実は僕も歌いだいんだ、僕もコレクチブ・ロウテイションのこと好きだし、」コウサクは下を向いてユウリに聞いた。「駄目かな?」

「いいよ、」ユウリは躊躇いなく頷いた。「鷹村君も歌いなよ」

 コウサクはユウリの返事を聞いて「やった」とやっぱり頬をピンク色に染めて女の子みたいに笑った。ユウリは男の子の女の子みたいな笑顔を見て、なんだか、ぼんやりとしてしまった。自分がコウサクにどんな感情を抱いているのか、正確に分析出来なかったんだけれどとにかく、コウサクの存在について脳ミソは色々と、考えているんだ。

「國丸、どうしたんだ?」マサヤがじっとユウリのことを見て言った。「なんだかぼーっとしちゃってさ」

「何でもないよ、」ユウリは最後まで残ってすでに冷たくなってパサパサのチキンナゲットを食べながら言う。「別になんでもない」

「そうか」マサヤは訝しげな視線をユウリに送ってくる。

 ユウリが自分のことを差し置いてコウサクのことを気に入ってしまったんじゃないか、という危機感をそのマサヤの視線から感じた。

 マサヤはユウリがコウサクに恋心を抱いているんじゃないかって勘違いしそうになっている。

 莫迦みたい。

 それは絶対にない!


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