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業火紅蓮少女ブラフ/Flash Back Rock'n'Roll  作者: 枕木悠
B-SIDE 天体世界望遠機械の線描(Sister,Find Out the Twilight View)
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シスタ、ファウンダウト・ザ・トワイライト・ビュウ/十三

 あくまでマラソン大会のメインは男子の競争なのでスケジュールでは女子が先に走り男子が後に走ることになっていた。すでに走り終え戦闘モードからすっかり冷めたユウリとコナツとナオコは北校舎と南校舎を繋ぐ二階の渡り廊下から男子がスタートしていく様子を眺めていた。マラソンの結果はナオコが二着、ユウリとコナツは仲良く十九位と二十位だった。三年生ではワン、ツー、スリーの成績だった。やっぱり現役で部活動に精を出している二年生、一年生は早かった。ユウリはしかし、順位は微妙だったけれど全然悔しくなかった。全力を出し走り切って燃え尽きて、それによって脳ミソは疲労を麻痺させる快感物質を放出していて気持ちがいいし、ショートへアだからいつもよりも風を感じることが出来て爽快なレースだった。このまま汗臭い学校指定の白いTシャツと重たい黒いハーフパンツを脱いでシャワーを浴びて十三時間くらい眠ってしまいたい気分だった。でも学校のスケジュールはそれを許さなくって男子のゴールを待ってお昼を食べてから午後はマラソン大会についての作文を書かなくてはならなかった。マラソン大会の作文ってなんだ、と思う。ランニングの途中に複雑なことなんて考えられない。足が痛いとか、苦しいとか、この田んぼの角を曲がったら全速力にギアを繋ぐとか、そういうことしか考えられないと思うのだ。

「そうよね、確かにそうだわ、」ユウリの意見にナオコは同意してくれた。「そういうことしか考えていないし、いつも一緒よね、走るっていう、とっても原初的なことしかしていないんだもの、当然よね、そこに複雑な思考はいらないもの、ただ走るっていう強い意志があればいい、そうよ、言葉なんていらないことよ」

「うん、そうだよね」

 二位のナオコがそう言うんだ。ユウリは自分の考えが何も間違っていないと思えることが出来た。

 以前、お昼休みを共にしてからナオコは、ユウリとコナツと行動を共にすることが多くなった。聞けばナオコは一組の女子たちが嫌いだとハッキリと言った。二人のことは好きよ、好き嫌いが激しいの、私って、でも嫌いな人たちの前ではそんなこと言えないわ、臆病なの、私って。「作文書くの嫌だわ、苦手なの、文章を書くのって」

 ナオコはアンニュイに言って、そしてユウリのことをマジマジと見つめて言った。「それにしてもショートヘアの國丸さんは本当に格好いいわね」

「もぉ、橋口さんってば、何度も言わないでよ、格好いいなんて、それほどでもないと思うけど」

 ナオコは今朝、ユウリを一目見て、期待していた可愛いではなくて「凄く格好いいわ、イケメンね」と彼女なりのハイテンションで言ったのだ。確かに男装したゼプテンバ様は格好いいが、ユウリは可愛いの比率の方が高いと思っていた。そんなゼプテンバ様のショートヘアを真似たわけだから、ユウリは可愛いと褒められた方がしっくりと来るというものである。現にマサヤは朝にユウリを見てクラスメイトが全員集合していた教室で、あまりにもユウリがキュート過ぎたせいだろう、叫んでしまったのだ。「國丸、なんだそれ、すげぇ、可愛いじゃないか!」

 その心からの叫びによってクラスの女子たちはマサヤに冷ややかな視線を浴びせていたが、そんなことは本当にどうでもよくって、問題はユウリに対するナオコの評価の方だ。「そんな謙遜しなくっていいわよ、國丸さん、だって本当に格好いいんだから、待ち受けにしたいくらいよ、ねぇ、新島さんもそう思わない?」

「え? あ、うん、」走り終えて眠たそうなコナツは苦笑しながら適当に返事をした。「そうだね」

「絶対思ってないでしょ?」ユウリは腰に手を当て片方の頬を膨らませてコナツに言った。

「思ってるよ、」コナツは目を擦ってやっぱり適当に言う。「思ってる、あー、ユウリのことを待ち受けにしたいなぁ」

「もぉ、全然気持ちがこもっていませんね」言ってユウリは頬の空気を抜いた。

「それじゃあ、國丸さん、ポーズを取って頂ける?」ナオコはスマートフォンのレンズをユウリに向けていた。

「え、本当に撮るの?」

 聞いた瞬間にシャッター音が響く。一枚撮られてしまったようだ。

「國丸さんって写真写りがいいのね、やっぱり格好いいわ、ねぇ、新島さん?」ナオコはコナツにスマートフォンの画面を見せて言う。

「そうだね、格好いいね」コナツは酷い棒読みだった。

「それじゃあ、撮影会と参りましょうか? 國丸さん、そこの柱に手を付いて目を細めて校庭の方を見てくれる?」

 ナオコの変なスイッチが入ってしまったみたい。雑誌のモデルよろしく、ナオコの指示に従ってユウリは気障なポーズを取り続けた。写真を撮られるのは苦手だ。ナオコは完全に自分の世界に入り込んでしまって今更嫌だなんて言えない。

「ふわぁ」コナツは大きく欠伸をして、少し濡れた微睡む目でユウリのことをどこか冷めた目で見つめ続けていた。ユウリの天敵のアイナの家のおしゃべりオウムも確かそんな目をしていたと思う。

 だから嫌。

 そんな目で見つめないでよ。

 お願いだから。

 そしてはっとユウリは気付く。

 コナツのことを警戒してしまっているってことに。


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