シスタ、ファウンダウト・ザ・トワイライト・ビュウ/十二
「ぎゃあ!」
金曜日の朝、いつも通り迎えに来てくれたコナツはユウリの姿を見て仰け反ってオーバに驚いて、電線に等間隔に整列していた雀を飛び立たせるほどの奇声を上げた。「ゆ、ユウリってば、髪が短いよぉ!」
「昨日切ったんだよ、」ユウリは自分の短くなった髪を触りながら、ショートヘアになったことなんてなんでもないという風に装って言った。「っていうか、ぎゃあってなによ、ぎゃあって」
「あははっ、ごめん、ごめん、」コナツは後頭部に手を当てて豪快に笑う。「あまりにもびっくりしちゃって」
「そんなに驚くようなこと?」
「だってショートヘアのユウリを見たのなんて初めてだし」
「短い髪の私は変?」
「ううん、そんなことないよ、そんなことない、」コナツは興奮気味に首を横に何度も振る。「そんなことない、っていうか、すっごく、すっごーく似合ってるよ」
「ありがと、」ユウリはコナツに高い評価をもらえて満足だった。そしてその勢いでコナツに軽くキスをした。「えへへぇ、コナツに気に入ってもらえたようでよかったわぁ」
「気に入ったっていうか、まあ、似合ってるけどぉ、」コナツはユウリがキスした唇を舐めた。「っていうか、ユウリ、なんで急に短くしたの?」
「ふふん、今日はマラソン大会ですよ、コナツさん」
「嘘でしょ」
「うん」
「あ、やっぱり、何かあるんだ」
「実はね、」ユウリはコナツと並んで歩きながら、スマートフォンでシスタ、ファウンダウト・ザ・トワイライト・ビュウのミュージック・ビデオを見せて、学園祭のライブでゼプテンバ様みたいに男装するっていうことをコナツに教えた。「そういうわけなのだよ、面白そうでしょ?」
「確かに面白そうだけど、へぇ、男装ねぇ」コナツはそう言いながら、なんだかどうでもよさそうだった。心、ここにあらずという感じで何か別なことを考えているみたいだ。
ユウリはそれが気になった。「なぁに、興味ないのぉ?」
「ううん、そんなことないけどさ、」コナツはユウリの顔をチラリと横目で盗み見て正面の信号の色に足を止めた。「でも、へぇ、男装かぁ」
「そうだよ、シスタ、ファウンダウト・ザ・トワイライト・ビュウのゼプテンバ様になるんだよ、ああ、タキシードを用意しなくっちゃいけないね」
「そうね」コナツはそっけなくそれだけ言って、そして重さのある息を吐いた。やっぱり心、ここにあらずという風に。
コナツはユウリの男装なんかに興味なんてないのだろうか。ショートヘアを似合っているって言ってくれたけど、本当はそう思ってはいないのかもしれない。ロングヘアのユウリの方がコナツはよかったのかな、失敗だったのかな、とユウリは心配になる。早くも後悔を感じてる。でも切ってしまったのだからしょうがない。戻れない。でもコナツの反応が、あらゆる意味であらゆる全てなんだ。心はモヤモヤとして溜まらないからユウリはコナツの顔を覗き込んで聞いた。「やっぱり短いの似合わない?」
「え? 似合ってるよ」
「本当?」
「本当だって」コナツはユウリの顔から視線を逸らして言う。
「ならいいけどさ、」ユウリはコナツの態度がなんだかそっけないと思う。「なんだかコナツが、そっけないからさ」
「え、べ、別にそっけなくないよ、」コナツは慌てて首を横に振った。「いつも通り、普通でしょ、確かにちょっと、」コナツは十一月の晴天の空を見上げて言った。「ユウリが違うから、落ち着かないんだよ、ちょっとだけ落ち着かないの、本当よ」
「そっか」
ユウリは頷き、コナツが見上げている空を見た。綺麗な青。その向こうには宇宙が広がっているんだなんて信じられないくらい青い。コナツの心はここではなくて空の向こうの宇宙にあるんだと思う。だから分からないんだ。
コナツが考えていることが分からなくなる。
宇宙を見通す機械を手に入れるまで分からないのかな。
なんて詩的に思った十一月の金曜日の朝なのでした。




