シスタ、ファウンダウト・ザ・トワイライト・ビュウ/九
「君は舌打ちが上手よね、練習してんの?」
五時間目の授業を五分早く切り上げて山吹はユウリを北校舎の非常階段の下まで連れて来てライタで煙草に火を点けて煙を吐いて言った。山吹の左手は着火させたばかりのライタを握ったまま火が消えるのを待たずに白衣のポケットに入った。彼の白衣のポケットの入り口が焦げたように黒ずんでいるのにはそういうわけがあったのだ。そんな真相が知れたって何も嬉しくはないんだけれど、とにかく山吹はフラストレーションが溜まるとここに来て煙草を吸って溜まったものを吐き出しているみたい。北校舎の非常階段の周囲はいつでも人気がない。ここを山吹の隠れ場所なのだ。「それで話って?」
「女装ってしたことある?」
「……何?」この季節のこの時間の夕日の前の低い角度からの陽射しを眩しそうにして目を細め、山吹は煙草を口元から離した。「……女装?」
「ライブで山吹に女装してもらおうって企んでいるんだけど、」ユウリは人差し指を立てて言った。「どぉ、それって面白いでしょ? すっごく盛り上がると思うんだけど」
山吹はたっぷり時間を使って煙草の煙を吐き出してから言う。「いや、面白くないでしょ」
「マサヤとコウサクはやるって言ってくれたよ、山吹だけ女装しなかったら変だと思う」
「脅迫してるの?」
「そんなんじゃないけど」
「横暴だよね、」山吹は小さく笑う。「でも、いいよ、やるよ、記念だし」
「記念?」
「歳を取ると何かと記念が欲しくなるのよ」
「よく分からないけど、うん、それじゃあ、決定、ということで、それでは今夜もブレーメンで会いましょう」ユウリは後ろで手を組んでくるりと回って山吹に背中を向けた。
「待って」
「はい?」
「僕らは女装をして、君はどうするの?」
「どうするのって?」
「君は男装をしよう、」山吹は煙草を落としてサンダルの爪先で消した。「どぉ、それって面白いでしょ?」




