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業火紅蓮少女ブラフ/Flash Back Rock'n'Roll  作者: 枕木悠
B-SIDE 天体世界望遠機械の線描(Sister,Find Out the Twilight View)
23/40

シスタ、ファウンダウト・ザ・トワイライト・ビュウ/八

 月曜日のお昼休みの屋上は筋肉痛の足のようにいつもと違っていて、ユウリとコナツだけじゃなくて、そこには一組のナオコもいた。ユウリとマサヤとコウサクと山吹でバンドを組んで学園祭でライブをやること、そのステージでマサヤとコウサクと山吹は女装をすることになっていることをナオコに教えて上げたら彼女は「すっごく楽しそう、」と控えめに言ってからまだそれについて話し足りないという風に「お昼一緒に食べない?」と誘って来た。「いつもここで食べてるの? 寒くない?」

 ナオコはマフラを巻いていて紺色のブレザの下にはベージュの厚手のセータを着ていて灰色のスカートの下には学校指定の紫色のウインド・ブレイカを履いていた。寒がりみたい。ナオコはとにかく華奢だった。余分な脂肪が一切ないという感じで彼女の手の甲には細く青い血管が透き通って見えた。目も生気がないと感じさせるほどにどこかとろんとしていて、ユウリは彼女の体を心配せずにはいられなかった。ナオコはユウリの目を引くような特別な美人ではなかったしタイプでもなかったが、鼻筋が通り目が大きく顔立ちは整っているので優しくしてあげたいとは思う。

「場所を変える?」

 ユウリが優しい声で聞くとナオコの腰まである長い黒髪は横に揺れた。体育の授業の後、結ばれていた彼女のロングヘアは解放されていた。「ううん、平気よ、大丈夫」

 ナオコは一見取っつきにくそうな印象だったから、もちろんユウリほどではないけれど、少し構えていたのだけれど、ナオコはすぐに屋上のお昼休みに打ち解けた。お昼休みが終わる五分前のチャイムが鳴るまで三人のおしゃべりの華は咲き乱れた。新しいスパイスが振りかけられた感じ。二人だけの平穏ないつもよりも、味付けが変わって楽しかった。

「実は私ね、ずっと國丸さんのこと気になっていたのよ、」教室に戻る道すがら階段を降りる途中でナオコは言った。同じような台詞をコウサクにも言われたと思う。「やっぱり面白い人ね」

 面白い人。

 言われて悪い気はしない。褒められているんだからむしろ嬉しいって思わなくっちゃいけない。でも複雑。だってユウリは別に、彼女の前で何かを面白可笑しく話した覚えなんてないんだから。楽しい屋上だったけれど、冗談だって何だって、ユウリの言葉はいつだってマジだから。

「そう?」ユウリは微笑みをナオコに向けた。微妙な笑いを強調して。「そんなことないよ」

「あ、もしかして怒った?」その微妙さ加減に、ナオコは気付いたようだ。とろんとした目をしているくせに意外と鋭いんだ。びっくりする。

「なぁに?」ユウリは自分の不機嫌さを鈍感なふりをして誤魔化した。「怒ってないよぉ」

「だったらいいけれど、」ナオコはとろんとした目を細めて控えめに笑う。子犬みたいだと思った。背が高いのにナオコは子犬みたいに笑う女。そしてここはちょうど三年一組の教室の前だった。「あ、それじゃあ、またね」

 ナオコはユウリの肩に軽く触れてから、隣の三年二組の教室に向かうユウリとコナツに手を振って一組の教室に入って行った。

 ユウリも手を振り返す。

 またね、か……。

 ユウリは立ち止まって考える。両足は四時間目のマラソンの練習のせいで筋肉がさらに炎症しているようで痛い。その痛みのせいか、お弁当を食べたばかりだからか、ユウリの頭はぼうっとしていた。ナオコのことを考えている。

 彼女は友達でしょうか?

 授業開始のチャイムが鳴った。

 とてもけたたましく聞こえる。

 合図なら砂時計くらいでいいと思う。

「ほら、ユウリってば、何ぼうっとしてんのよ、」コナツは立ち尽くすユウリの腕をぐっと引っ張る。そしてユウリの耳元に口元を寄せて声のボリュームをおさえて言った。「まさかナオコのこと好きになったんじゃないでしょうね?」

「まさか、」ユウリは丸い目を作って首を振る。「橋田さんはタイプじゃないもの」

「だったらいいけど、」コナツは口を窄めて言う。「だったらいいけどさ」

「え、もしかして嫉妬してるの?」

「そんなんじゃないけど、」コナツはユウリから目を逸らして言った。「そんなんじゃないけどさ」

「そっか、そんなんじゃないんだ、」言いながらユウリはにやにやしていた。嫉妬してくれてるなんて嬉しいじゃないか。可愛いじゃないか。「そんなんじゃないんだね」

「なんなのよ、その顔はぁ」コナツはユウリの頬をむにっと抓った。

 これくらい痛いのが好き。

「コナツ」ユウリはコナツをぎゅっと抱き締めた。

「もぉ、急になんなのよぉ」コナツはそう言いながらもユウリの頭を猫でも撫でるように触っていた。

 そのときだった。

「廊下で公然といちゃついてるんじゃないよ、莫迦野郎」

 五時間目は山吹の理科の授業だった。山吹は教科書で軽く二人の頭をポンポンとリズムよく叩いて大きく欠伸をして言った。「ほぉら、教室に入りなさいよ、授業をしますよ、莫迦野郎」

「あ、山吹、話があるんだけど」

「先生を付けなさいよ」

「山吹先生、それでね」

「理科に関係のない話なら授業の後だ、莫迦野郎」

 ユウリはそれに盛大に舌打ちで答える。


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