シスタ、ファウンダウト・ザ・トワイライト・ビュウ/六
錦景市は日曜日の夜の九時。
ユウリはロンズデールのジャージを纏いアディダスのランニング・シューズを履きウォークマンに接続されたイヤホンを耳に挿し込んで夜の街に出た。十一月の夜の冷たい空気がユウリの速度に合わせて次第に鋭い風になる。ユウリは赤信号で一度立ち止まって青信号になったタイミングでブリッジン・フォ・ニュウを再生させて紫と赤の煉瓦が交互に敷かれた、蛇行することなく真っ直ぐに伸びる広い歩道を息も出来ないくらいの速さで走った。
十秒間。
たった十秒間くらいだったけれど、動くことを拒絶して風になれなくて止まれば、体は発火したみたいに熱くなって、もう何も出来ないってくらいに苦しくなった。ユウリは可愛い女の子には見せられない酷い顔で空回りしているような呼吸を何度もしながら、その苦しさを心地よいと感じている。
心地よいと思った瞬間にまた、例外なく銀色のボルトが埋め込まれたままの右足が疼いた。
その疼きによってユウリは引き戻される。
夕焼けに遠くに伸びた影。
それが夜に消えて。
いつの間にか影は、真上の外灯の力のない光によって足元に丸く小さく存在している。
そんな風に引き戻される。
引き戻されて。
汗が目に入り、口に入り、一筋がアスファルトに落ちて。
死ねない理由。
死んでない理由。
生きている理由。
生きられる理由を考えている。
ユウリはまだそれを明確に知らないからだ。
掴んでは消えて結局それをまだ一度も触ったことなんてないんだと思う。
コナツの温もりを感じたいと思う。
天体史の海に埋もれたいとも思う。
なぜか天球儀を回す自分の姿をイメージした。
疼きはユウリの心拍数が収まるのに応じて消えた。
ユウリは再び走り出す。
華の公園を目指した。
会いたいと思ったからだ。
しかし今夜もユウリは師匠の武尊アマキに会えなかった。
もう夏以来会っていない。
夏はとっくの昔に過ぎ去ってしまった、遥か遠くの季節のような気がする。
初冬の風はユウリの火照った体を徐々に冷やした。
この季節になると華の公園の真ん中の献華は少なくなる。
寂寞を思わずにはいられない。
添えられた華々にも精気はなく、夏には音が聞こえそうなほどの勢いで燃え上がっていた華の炎は今は、立ち昇らずに燻っている、という感じだった。
その前では沈黙がふさわしいのでしょうか。
ベンチに座り燻る献華を睨んでユウリは黙り込む。
何もない時間の中にいた。
華の公園に時計はない。
はっと息を吐きユウリは靴ひもを結び直した。
そしてまた沈黙を繰り返す。
この沈黙には違和感があった。
銀色のボルトが埋め込まれた右足が疼く。
燃えたい。
業火紅蓮少女は思い出した。




