シスタ、ファウンダウト・ザ・トワイライト・ビュウ/五
アイスクリーム・ハウスを出て三人は駅直結の伊勢丹をぶらぶらと歩いていた。ユウリはまた二人にお揃いの何かをプレゼントしてあげたいって思って有名ブランドのショップが集まるフロアを見回していた。
「コレなんていいと思うの」
ユウリはフェンディのショップの店先に見えた、胸元に大文字のFが二つ向き合ったロゴが素敵なダークグレイのセータに反応してすぐに手に取ってコウサクにあてがった。「ほら、いい感じじゃないの、凄くいい、ね、シオリちゃん」
「うん、可愛いです」
「確かに可愛いけど、」コウサクは鏡の前に立って真剣に自分の姿を見て言う。「フェンディなんて買えないよ」
「買ってあげる」
「え、またプレゼントしてくれるの? っていうか、」コウサクはタグを確認して苦笑する。「中学生には天文学的なお値段だよ」
「前に言ったでしょ、私はお金の心配をしなくていい身分だって」
「でもさすがに高すぎるよ」
「関係ないわよ」
ユウリは奥のカウンタでアンドロイドみたいな目でじっとこちらを警戒するように見つめていた、少々前衛的な髪型とファッションをしている店員さんを呼びコウサクをフィッティング・ルームへと連れて行かせた。
ユウリとシオリの二人は黒いドレスを纏うマネキンの後ろに並んで立ちコウサクのことを待った。
「シオリちゃんも試着すればいいのに」
「私はいいんです、サイズはコウちゃんと一緒なので、」シオリは首を振って控えめに笑う。ユウリは彼女の目尻にホクロがあることに気付いた。双子を区別する目印を見つけた。「でもユウリちゃん、本当にプレゼントしてくれるんですか? フェンディのセータなんて」
「君たちが可愛いから、何でもプレゼントしてあげたい気分なのよ」
「なるほど、そうですか、」シオリは真顔で言ってから視線を足下に向けた。シオリはニューバランスのスニーカを履いていて、もちろんコウへイも色違いを履いていた。シオリは丸みのあるスニーカの爪先を見つめたまま言う。「・・・・・・キスぐらいしか出来ませんよ?」
「え、急に何?」
「お返しはキスだけでもいいですか?」
「どういう意味よ、」ユウリは苦笑して前髪を両手でかきあげた。「・・・・・・っていうか、知ってるんだね、私のこと」
ユウリの体は瞬間的に熱くなった。粘りけのある汗がじんわりと肌を覆うのが分かった。
「はい、」シオリは視線をこちらに向けて探るようにユウリの顔を覗き込んだ。「もしかして、嫌ですか?」
「嫌って? キスが?」
「違います、私が知っていることが嫌ですか? 嫌だったら私は忘れます」
「別に忘れなくていい、」ユウリは首を横に小さく振る。「別に嫌じゃない、動揺はしてるけど、コウちゃんにもあなたにそのことを言わないでなんて頼んでもいなかったし、それに最初から私のことを分かってくれているのなら、なんていうか、気が楽っていうか、違うな、なんだろう、信じられるって言うのかな、うん、シオリちゃんのことが信じられるよ、私のことを知ってて、一緒にいてくれるんだから、ただ動揺はしてるけど、」ユウリは虚勢を張って笑顔で言った。「別に平気だわ、平気よ」
「ごめんなさい」シオリは謝ってユウリの手を握った。そして恋人同士がするみたいに絡めた。
「何コレ、サービスのつもり?」声には意図せず棘が立ってしまった。「私のことを喜ばせようって?」
シオリは顎だけ引いて頷いた。「キスまでならいいですよ」
「だからどういうつもり?」ユウリはシオリの全身を愛撫するようなつもりで両手をシオリの左手に絡め唇を耳に寄せて言った。
「お礼です」
「なんのお礼?」
「イヤリングと、アイスクリームも奢ってもらっちゃったし、それにフェンディのセータ、それから、」シオリはそこで強い意志のある目をしてユウリを見た。「それからコウちゃんのことを理解してくれたから、ユウリちゃんは私以外に初めてコウちゃんのことを理解してくれた人ですから、だからそのお礼です」
「別にお礼なんていらないけど、」周囲を見回しながらユウリは右手をシオリの腰に回しながら言った。シオリの全身は微動していた。未知の恐怖の襲来に怯えている震え。ユウリはシオリのことを一気に攻めて支配したいと思う。けれどここは伊勢丹のフェンディのショップだ。それにシオリは同志の従姉妹だ。支配は出来ない。「コウちゃんの存在って、私にも大きなものよ」
「そう言ってくれて嬉しいです」
「だからお礼なんていらない、」ユウリはシオリの体から自分の体を離した。シオリが安堵したのがユウリには分かって、それはちょっと、辛いことではある。「それにシオリちゃんってストレートでしょ?」
「ストレート?」シオリは首を傾げる。
「普通の女の子ってこと、男の子が好きな女の子ってこと」
「あ、なるほど、ストレートって言うんですね」
「そうでしょ?」
「ごめんなさい、私、ストレートです、ごめんなさいです」
「謝る必要なんてないでしょ、」ユウリは苦笑する
。「普通のことなんだから、ストレートに回転がかかって歪んで捻れて変な軌道でさまようのが私たち」
「変じゃないです」
シオリは真面目な顔で言った。少し怒ってもいるようだった。真剣さが伝わってくる。シオリは本気で変じゃないって言っている。言ってくれている。この人は信頼できる少女だと思う。「全然、変じゃないですよ」
抉られる。
ユウリは痛みを誤魔化すように額に手をやり笑った。
「あははっ、参ったな、シオリちゃんのこと、本気で、」そこでユウリはボリュームを下げる。「好きになりそう」
「キスまでなら、」シオリはまたニューバランスのスニーカの丸い爪先を見ていた。「キスまでならいいですよ」
そのタイミングでフィッティング・ルームのカーテンが開いた。Fが向かい合ったロゴが素敵なダークグレイのセータはコウサクによく似合っていた。それはシオリにもよく似合うってことだ。そのセータは他にベージュとピンクとレッドとネイビィとホワイトがあってユウリはシオリにホワイトを勧めた。
「分かりました、私は白にします、あ、それじゃあ、」シオリは悪戯な顔をして言った。「ユウリちゃんは紅にしましょうか」
そんなわけでユウリは二人のお揃いに巻き込まれることになった。夜の七時にユウリは二人と別れ帰路に就いたが、フェンディの紙袋を大きく揺らしながら、もうすでに来週の日曜日のことを考えていた。




