シスタ、ファウンダウト・ザ・トワイライト・ビュウ/四
ユウリを真ん中にして左に緑色のパーカのコウサク、右にピンク色のパーカのシオリという配置で三人は地下街を歩いた。緑色のパーカはコウサクだと分かっていても、やっぱり綺麗な双子に挟まれている感じでそれってとってもいい感じ。気を抜くとユウリはコウサクとシオリのどっちがしゃべっているのか分からなくなった。声色も口調も違うし、コウサクは自分のことを「僕」と言うけれどそれでもユウリは緑色とピンク色の区別が付かなくなった。今でこうなのだから、もし本当の双子の姉妹に愛されてしまったら大変だなってユウリは思った。でも楽しい。ブレーメンに通っている最近はほとんど毎日歩いている錦景市駅前の地下街だけれど、全く違う景色に見えた。
とにかくユウリは無性に、二人にお揃いのものを買ってあげたくなった。男女問わず、街で見かける小さな双子はお揃いの色違いの洋服を着させられているけれど、そのことについて今ならよく分かる。双子の母親の気持ちがよく分かる。要するに神秘的なんだ。同じモデルの人間が二人いるってやっぱり特別で、普通じゃなくて、神秘や奇跡といった印象を双子には抱いてしまうものなんだと思う。双子が発する神秘性をさらに強く感じたいがために母親はきっとお揃いの服を着せたがるのだ。あるいは自らが産んだ神秘の奇跡を誇示したいという欲求もそこにはあるのかもしれない。
ユウリはそんな風な欲求を満たしたいと思ってお揃いのイヤリングをコウサクとシオリにプレゼントした。ふらりと立ち寄ったロマンチック・スターという小さな雑貨屋さんで見つけたノーブランドで千円もしない、三日月と星をモチーフにしたイヤリングだった。ユウリは一目で気に入りコウサクにはゴールドの三日月と星を、シオリにはシルバの三日月と星をプレゼントした。それを耳に装着した二人はさらに神秘的になる。「凄く素敵よ」とユウリが胸の前で手を叩いて感動を表現すると二人は同時に同じ形のえくぼを作った。
シオリはいつの間にかユウリのことを「ユウリちゃん」と親しげに呼ぶようになっていた。人懐っこい性格みたいで気付けばシオリはユウリの左手を引っ張っていた。可愛い女の子にユウリは優しいので、彼女も気に入ってくれたんだと思う。聞けばシオリは東隣の学区の広瀬中学校に通う中学二年生でユウリよりも一つ年下だった。完璧なメイクのせいで高校生にも見えたけれど中身は全然まだまだ子供だった。
午後の三時になったくらいでシオリはアイスクリームが食べたいと言い出して、三人は地上に出てトリケラトプスの前を再び通ってアイスクリーム・ハウスというお店に入った。もう冬だというのに店内は混雑していた。三人はウェイトレスのお姉さんに二階の窓際のテーブル席に案内される。トリケラトプスのオブジェもそれを取り囲む誰かと待ち合わせている人たちの表情もよく見える場所だった。シオリはチョコレート・アイスケーキを注文した。ユウリはバニラアイスケーキ、コウサクはストロベリーアイスケーキを注文した。テニス部だというシオリの話を聞いているとアイスケーキたちはすぐに運ばれて来た。お値段から考えると凄くボリューミィなアイスケーキだった。でも最近甘い物が止まらないユウリは簡単にバニラアイスケーキを平らげた。コウサクの味覚は完全に女の子のようでニコニコしながらピンク色のアイスクリームケーキを幸せそうに食べていた。シオリは食べたりないってまた別のアイスクリームを注文した。ユウリは追加でココアを頼んだ。家で作るココアの倍くらい甘くって口の中が甘さに炎症しているみたいになった。要するに単純簡単に幸せを感じているってこと。
春日中学校の広瀬中学校の文化慣習の違いについて話し終え、次の話題が中々定まらないというタイミングでユウリは「あっ、」と少々わざとらしく切り出した。「ねぇ、コウちゃん、学園祭のライブのことなんだけど、ちょっと面白いことを、ちょっと企んでいてね」
「面白いこと?」ユウリの対面に並んで座る少女のうち、緑色のパーカを着た方がスプーンの先を口の中に入れたまま首を傾げた。
「うん、そのね、コウちゃん、」ユウリはまっすぐにコウサクを見て言う。「コウちゃんの姿のまま、ステージに出てみない?」
「えっと、つまり、」コウサクは口の中からスプーンの先を出し皿の上に置いてゆっくりと瞬きを繰り返した。「女装してステージに出てみれば、ってこと?」
「そうそう」
「それは変だよ、」コウサクは窓の外を睨みつけるように見たまま早口で言う。「面白くないよ、國丸さん、僕に全校生徒の前でカミングアウトしろって言うの?」
「いや、そうじゃなくって、女装してステージに出るのはコウちゃんだけじゃなくって、その、マサヤにも山吹にも女装させるんだよ」
「え、二人も?」
「そう、二人にも女装させる、」ユウリは椅子から腰を浮かせてコウサクに顔を近づけて人差し指を立てて言った。「そうすれば、コウちゃんがそうだって誰も気付かない」
「まあ、確かにそうだろうけど、でも、どうしてそんなことするの? いや、確かに、女装してバンドするのは面白いかもしれないけど、内藤君と山吹先生の女装姿、ちょっと見てみたいけど」
「コウちゃん、前に私に言った、マサヤと山吹に女の子の自分の姿を見てもらいたいって言ったよね、覚えてる?」
「覚えてるけど、え、國丸さん、まさかそれで?」
「うん、」ユウリは大きく頷いた。「そのときに、思いついたんだよね、そうすれば自然に、二人はコウちゃんを目撃する」
「そうだね、そうすれば、自然だね、確かに自然に目撃されちゃうね、」コウサクは冷静に言ってそして隣のピンク色のパーカのシオリのことを見た。「シオリちゃんはどう思う?」
「コウちゃんがやりたいならやればいいと思うよ、コウちゃんがやりたいなら応援するよ、うん、応援する、コウちゃんが私の意見を聞く必要なんてないわ」シオリはどこか大人びた口調で言ってから「あっ」と手をあげ無邪気な笑顔を見せてまた、アイスクリームの追加を頼んでいた。




