フラッシュ・バック・ロックンロール/十二
十一月の第一土曜日の段階ではまだ、ユウリは楽しい企みについてロックンロール・バンドの友達たちには内緒にしていた。楽しいことの性質はあくまで演出で、本質ではない。本質が、ユウリが企んだ楽しいことによって影響を受けてしまうのは避けるべきことだった。コウサクや山吹は心配ないだろうが、特にマサヤにその影響が顕著に出てしまうのではないかとユウリは懸念していた。マサヤのギターはユウリが求めるレベルに全然達していない。残る三週間、刀鍛冶が熱い鉄を叩いて成形するように叩いて叩いて叩かなくっちゃいけないと思っていた。最終的にとどめを刺すタイミングはもっと後でいい。
錦景市の土曜日、ユウリはいつもよりも早く起床し、一週間ぶりくらいに受験勉強モードになって模試を解いた。五科目を一時間半で終わらせて、コレクチブ・ロウテイションのセカンド・アルバムをBGMに採点した。出来は九割七部で三部の間違いは全て朝の回っていない脳ミソによるケアレスミスだった。そしてユウリはシャワーを浴びてトーストを一枚かじり、ソファにごろんとなりながらもうすでに何度読み返したか分からない天体史の概説書に目を通した。何度も読み返してはいるが、発見はその度にある。それは自分が抱える問題とピタリと符合していて、常に驚かされる。この驚きには慣れない方がいいのだろうな、とユウリは漠然と思っていた。
ユウリは錦景市の午前十一時に出掛ける準備を始めた。正午にコナツがインターフォンを鳴らすまで何を着ようかって悩み続けた。今日はコナツとショッピングに行くって約束していた。要するに二人の何かが変わってしまってからの初めてのデートだったからユウリは真剣だった。でも真剣さをコナツには悟られたくなかった。いつも通りのショッピング・デートの何気ない感じで行きたかった。ユウリは髪の毛をスプレで金色に染めてブルーのカラーコンタクトレンズを装着して、ゼプテンバ様のコスロテをしたかったがそれは止めて、結局コナツと遊びに行くときのいつも通りの衣装をセレクトした。アドミラルのシャツを着て白と黒のボーダーのカーディガンを羽織り、緑色の太めのネクタイを締め、ユキコの白い膝下くらいの白いロングスカートを借りて穿いた。脚元が冷える気がしたのでユニオン・ジャック柄のレギンスをプラスした。そのレギンスはゼプテンバ様が一年前の冬のライブで穿いていたものだ。インターフォンが鳴ってユウリはアディダスのスーパ・スターを履いて外に出る。
コナツはオレンジ色の厚手のスヌウピのパーカに紺色のコットン生地のロングスカートを合わせていた。靴はコンバースのハイカットスニーカ。コナツの装いはいつもこんな風にカジュアルな感じで服のどこかにはいつもミッキィとかスヌウピとかムウミンとか、ファンシィな世界のキャラクタがいた。今日のコナツのパーカのスヌウピは迷彩柄のヘルメットを被り巨大なロケットランチャを斜めに構えていた。戦場のスヌウピだった。それはきっとコナツの心とリンクしていて、コナツもユウリと同じように今日のデートにすっごい気合いを入れてくれているのかもしれない。もしそうだったら嬉しいなと思った。気負う素振りは見せないけれどいつも通りの満点の笑顔にユウリと同じ気持ちを隠してくれているなら嬉しいなと思った。
コナツは今日もユウリの手を強く握って引っ張ってキスしてくれた。
「えへへ」コナツは悪戯に笑っている。
錦景市の十一月の空は快晴に染まっていた。天高く太陽は昇り、昨日よりも今日はあったかい。
二人はバスに乗って錦景市駅に向かった。ユウリのマンションに近いバス停から錦景市駅前までおよそ十分の道のり。バスの中で吊革にぶら下がって揺れに揺られるコナツは窓の向こうの流れる景色を見ながら言った。「今日はユウリにプレゼントを買ってあげる」
「え、本当? 何を買ってくれるの?」
「内緒だよぉ、」コナツは目を細めて微笑む。「何を買ってあげようかってのは決めるけど、内緒だよ」
「えー、それじゃあ、私も、コナツにプレゼント買わなくっちゃ」
「いいよ、今日は私の番、今度がユウリの番っていうことにしようよ、そうしよう」
「あ、それってなんだか楽しいかも」
「そうでしょ? なんだか楽しいでしょ?」
バスに揺られながら二人は顔を見合わせ小さく笑い合う。




