フラッシュ・バック・ロックンロール/十一
ユウリが企んだことはその日の内にはコウサクにもマサヤにも話さなかった。それを秘めたまま、マサヤがファミマで大量に買い込んできたチョコレート・クッキィとポテトチップスを中心としたお菓子群を全て平らげた後、ユウリは二人の前で初めてブリッジン・フォ・ニュウの歌声を披露した。マサヤはユウリの歌声が天使過ぎて言葉を失っていた。コウサクは手を叩いて絶賛した。両手の位置は顔より上にあってそれは同志を称えるときの拍手だった。「國丸さんってどこまで天使なの?」
「ちょっとボイスの調子が悪いわね、」ユウリは二人の反応が嬉しかったがそれを表情に出さずに言う。「ゼプテンバ様の歌声にはほど遠いわ」
そこからユウリたちは錦景市の夜の九時まで練習を続けた。その後は星野さんに言いつけられているところを三人で掃除した。ユウリはトイレをピカピカに磨き上げた。ユウリは綺麗好きである。学校でも掃除の時間は一人で黙々と雑巾掛けをするタイプだ。掃除をしない人間は嫌い。
さて、家に帰って今夜も来ていたホワイトアッシュのユキコに一通り眩惑されて「ごめん、お菓子沢山食べちゃったから」とご飯を断りユウリはお風呂に浸かった。口元までお湯の中に沈めて意味もなくブクブクとさせて考えていることはやっぱりコウサクのこと。ユウリは小さく呟く。「……同志か、同志って、莫迦じゃないの」
でも悪くないよな。
嫌だなんて思わないな。
同志の存在っていいと思います。
コウサクのために何かしてあげたい。
その何かをユウリは企んだ。
しかし迷惑?
おっせかいだって思われたくはない。
でもユウリが企んでいることってコウサクにとっても悪いことじゃないと思う。
きっと楽しいこと。
少なくともユウリにとっては楽しいこと。
莫迦莫迦しくって、莫迦が一回転して、究極に楽しいことに思える。
そんなもの。
ユウリは錦景市の夜の十一時過ぎの遅い夕食を食べながら、お風呂に入って色々考えていたら結局お腹が空いてしまったのだ、ユキコに究極に楽しい企画を話した。話すと、不思議とそれが鮮明な形を造って確かな未来になるように思えた。全く関係のないユキコに話しただけなのだが、そう思えた。ホワイトアッシュのユキコはミルクを多めに入れたホット珈琲を飲みながら声を出して笑った。「それって最高に楽しいことね、いいじゃないの、やりなさいよ」
「笑える?」
「ええ、すっごく、だから悩むことなんてないんじゃない」
「悩んでいたわけじゃないけど、」ユウリはまたしてもユキコに見透かされていると思う。しかしなぜか今は見透かされていることが心地よかった。「迷ってたんだよ」
「一緒よ」
「全然違う」ユウリは首を小さく横に振ってパスタをフォークにぐるぐると巻き付ける。
「迷うことなんてないわ、」ユウリは頬杖付いてそのまま眠ってしまいそうに目をゆっくりと閉じて言った。「ユウリは迷うことなんてないの」
ホワイトアッシュのユキコの声は精霊の囁きに聞こえて迷うことなんてないのだと思った。ユウリは溜息を吐いた。ホワイトアッシュのユキコに眩惑されるのに疲れてしまったんだ。臨界点の精確な設定が必要ですね。
「……黒く染め直そうかしら、」ユキコは自分の髪を手の平で触りながらやっぱりユウリの心を読んだみたいに急に言った。「落ち着かないのよね、ユウリもそう思わない」
確かに落ち着かない。
目の前に座られるだけでドキドキしてしまうんだから。
でも。
「別にそのままでいいよ、そうね、学園祭が終わるくらいまではそのままでいいんじゃない?」
ユウリはそのドキドキをもうちょっと味わっていたいと思ったので。




