フラッシュ・バック・ロックンロール/十
「鷹村君は、それで、」ユウリはコウサクの心に一歩、踏み込むことを決めた。それはユウリがコウサクに関するあらゆることで傷付く覚悟をしたということだ。「山吹やマサヤとどうなりたいの?」
「どうなりたいって、別に、」コウサクは首を竦めて笑う。「何も思ってないよ、どうなりたいかなんて、このままでいいって思ってるんだ、僕は、先生や内藤君と仲良しでいられたら、もちろん國丸さんとも、こうやってロックンロール・バンドをやれたら、それで満足」
「嘘、」ユウリはストレートにコウサクの可愛い顔を見つめていた。「本当のことを言って、私たちって同志でしょ?」
「本当だって、今、僕、すっごく幸せだって思ってるから、このままがいいんだ、楽しいんだ」
「ずっと何かと戦い続けているのに? このまま永遠に戦い続けることになるのに? それで幸せ?」
「戦いの中にも幸せって感じられると思う、戦争は繰り返されるけれど終わらないってことはないでしょ、終わった瞬間は安らげると思う、なんて戦争のことなんて何も知らないんだけどね」
「無欲を装うのは止めて、虚勢を張るのは止めて」
「虚勢なんて張ってない、僕はこのままがいいんだよ、このままが続けばいいって思ってる、先生には星野さんっていう素敵な人がいるし、内藤君は國丸さんのことが好き、だから僕が二人に対して行動を起こしたところで何も変わらないんだと思う、いや、変わらないことはないか、行動を起こしたら壊れちゃうでしょ、幸せなこのままを僕は壊したくはないんだ」
「辛くない?」
「そういうのは、あんまり考えたことないな、だって最初から無理だって分かってるから」
「私は辛いと思う」
ユウリの声にコウサクは笑顔を消した。何かを思いつめている、という顔でバスドラムをまたドッドッと二回踏んだ。「……ねぇ、國丸さんと新島さんって付き合ってるの?」
「……内緒、」ユウリは曖昧に笑った。「でも凄く深い関係だってことは教えてあげる、いわゆる幼馴染ってやつだし、でも」
「微妙なんだ」コウサクはユウリの台詞を続けた。
「そうね、微妙なの、まだ微妙なのよね、でも告白はしたわ、」ユウリは言葉に自信を込めて言った。「それほど素敵な瞬間ではなかったけど」
「凄い」
「凄く辛かった、」ユウリは少し涙ぐんでいた。そのことに気付いたのはコウサクの輪郭が急に滲んだから。ゴールド・ジャムの、あの一室での映像を思い出すと吐きたくなるんだ。「凄く悪いことをしたみたいだった」
「そう」
「でも、せずにはいられなかった、ずっと好きだったから、その溜まり続けていた私のエネルギアって多分、そうしなくっちゃ破裂して自分を殺してしまったんじゃないかって思うくらい、それくらい大きなものだった、それくらいどうしようもなく大きなものが鷹村君の中にもあるでしょ?」
「大きなもの? 分かんないな」コウサクは達観した顔で首を横に振る。
「きっとあるわ、」ユウリは涙ぐんだ目を指で拭いた。「心の中で騒ぎ続けて膨らんでピリピリしていて今にも爆発してしまいそうな感情、要するにヒステリィ」
「僕は男だから」
「あなたは少女でしょ?」
「嬉しい、」コウサクは愛らしく笑って目の形を変えて言った。「國丸さん、実は僕ね、日曜日は女の子になるんだ、女の子の格好をして、昔から僕のことを知っていてそのことも知ってる従姉妹のシオリちゃんと二人で色んな街に遊びに行くのが僕の日曜日なんだ、絶対に男だってバレちゃいけないから茶色のウィッグを被ってシオリちゃんにメイクもしてもらって服もすっごくファンシィなものを選んでね、僕はそういうことをして危険な大きなものを発散しているのかもしれないね、で、そんな時にね、たまに思うことがあるんだ、先生や内藤君が女の子の姿をした僕を見たらどんな風に思うんだろうって」
「顔がピンク色になるかって?」
「うん、」コウサクは小さく微笑む。「ちょっとくらいはドキッとして欲しいよね」
「きっとドキッとするわよ、私も多分、」ユウリは目を大きくしてオーバに頷く。「きっとドキッとしちゃう、それが君だって知らなかったらきっと、告白だってしちゃうかも」
「んふふっ」コウサクは完全な少女モードで高い声で笑った。
「とにかく二人の反応を確かめたいわけね」
「うん、まあね、でもそんなつもりもないけど」
ユウリは何かを企む目をして言った。「分かったわ」
「え?」
そのときだった。
「たっだいまぁ」
何も知らない顔してマサヤが買い出しから帰ってきた。その愉快そうな何も知らない顔にユウリはちょっとムカついていて睨みつけてやる。コウサクもマサヤのことを睨んでいるように見えた。
「え、なんですか?」マサヤの表情は軽く歪んでいて面白かった。




