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ズキズキとする痛みが身体を苛む。
痛覚によって強制的に意識を呼び戻され、ハルは呻きながら目を開けた。
「な…に…、こ、こ…?」
声が掠れて、上手く言葉にならない。
視界は薄暗く、目を開けているか疑問に思う程だった。幾度かの瞬きを繰り返し、漸く見知らぬ何処かにいるのだと理解する。
木製の天井と壁。
自分が横たわっている事にも気付いた。
「…ぐっ…。」
横を向こうと身体を動かした時、全身に激痛が走る。
腕一本動かせない現状が分かり、非常に焦った。
頭の中で様々な憶測が飛び交う。
そんな中、コツコツとテンポの良い音が近付いて来た。足音…、二足歩行の生物には違いない。
キイッ…、と扉が開かれる音。ハルの全身に緊張が走った。
咄嗟に目を瞑り、早る心臓と呼吸を無理矢理抑え込むハル。
コツコツと音が近付き、やがてそれはすぐ隣で止まる。水音が聞こえ、額にヒヤリとした何かが置かれた。
濡れタオル…だと理解した時、ソッと首元を触られる。冷たい感触と知らない何かの恐怖に、ビクッと跳ねなかった自分を誉めてやりたい。
「…はぁ…。」
悩ましい溜め息が漏れ、首からそれが離れた。
人の手…だった、と思う。
それはそれ以上何もせず、再び同じ場所…ハルの足元の方から出ていった。
出入口は一ヶ所、恐らく人の住む家なのだと判断する。
それでも、今は全く動けないのだ。とりあえず直ぐ様危害を加えられる可能性は低いと感じ、ハルは警戒の為に張り詰めていた全身の力を抜く。
自分がいた場所を思い出すと、記憶にあったのはパクストンの森付近が最後だ。現状、近くにジェフがいる気配もない。逃げたのかはぐれたのかは、勿論分からなかった。
実際に何も分からないのだ。そして動く事も出来ない。考えても何も変わらないのだから…と、ハルは考えるのを止めた。
左手側から空気の流れを感じる。窓があるらしいが、人の声は聞こえなかった。
ただ風の動きを感じ、不意に生物の…鳥などの声が聞こえない事に思い至る。森の中ならば、最低でも鳥くらいはいる筈だ。
捜索魔法を発動しようとして、己の違和感に気付く。魔法が…、魔力が使えないのだ。
集中出来ない。しようとすると、頭の中にノイズが走るのだ。
「マ…ジ?」
先程とは違った焦りが精神を苛む。
今まで魔力が使えなかった事は一度もなかった。この16年の人生の中で、ただの一度もである。




