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「あ~あ…、結局貰ってきちゃったなぁ。」
上空を飛びながらの独り言。
ハルはベンジャミン・アランから渡された褒賞金を断りきれず、布に包まれた紙幣を貰ったのである。
勿論お金はあって困るものではないし、今回の出費は大きすぎた。それでも腑に落ちないのは、あのベンジャミン・アランの表情ゆえか。
「ま…、仕方ないな。終わった事をいつまでもグチグチ言ってても何も変わらないし…って?!」
空と大地を交互に視界に入れ、回るように飛んでいたハル。
その一瞬視界に入ったものへ意識を取られ、慌ててそれを探す。隣を飛んでいたジェフが回転を止めたハルの左肩に乗ったが、気にする余裕もなかった。
そして下界に広がる森の中を注視し、再度真っ黒なものが見えたのだ。
「…ダン?」
幾度かチラチラと木々の合間から見えた姿に、ハルは思わず呟く。
ここは王都からかなり離れている為、歩いて来るには遠い筈だ。そう思いつつも、あれから何日経ったのだろうと考える。
丸一日…。だがそれだけあれば、ダンの速度ならば可能な距離でもあった。
本当に自分と離れたいと願っての行動ならば、追ってはならないだろうと思う。それでも…。
ハルは納得していなかった。ダンが姿を消した理由も、話してくれなければ分からない。言葉が通じるからこその葛藤のようなものだった。
「…このままじゃ、ダメだ。」
結局自分本位だな、と自嘲めいた笑みが溢れる。
それでも、もう一度話したかった。
…ダンと話したい。
ハルは決意し、急降下を行った。慌てたジェフが一旦宙に留まるが、すぐさまハルを追い掛けて降下する。
そして奇妙な追い駆けっこが始まった。
木々の合間を縫って行く影を追うハルは、一定の距離を離してついていく。相手が黒いので分かりやすいが、時折視界を塞ぐ木々が鬱陶しかった。
ダンは何処へ向かっているのだろう、と意識が思考に沈む。追い付いて何を告げれば良いのか、もはや考えていなかった。
反射的に身体が障害物を避けているが、それは長く続かない。意識は思考の中に深く沈み、過去の回想シーンを再生していた。
そしてハルの目の前に、突然大木のかさついた肌が現れる。
避けられなかった。
思い切り正面から激突する。
咄嗟に頭部を庇い、両の腕を出した事までは覚えているのだが…、その先はハルに分からなかった。
頭の中では未だ幼いダンが走り回っている。今より少し小さい自分と、子猫のようなダン。
あの頃は…、幸せだった。




