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「は~…っ」
大きく肩で呼吸するハル。
「大丈夫?エディー。」
そして、硬直したように動きを止めていた少年に問い掛ける。
「…ふ…えっ…、うわ~…、怖かった~っ。」
泣きながら訴えるエディーは、見たところ首の軽い裂傷だけのようだ。
これも、強化魔法をかけていたおかげだろう。
「ん、良く頑張ったな。」
ニッコリと笑みを向けるハル。
そしてミノタウロスの頸部に突き刺したままだったレイピアを引き抜いて鞘に納めると、その魔物に手を伸ばして直接触れる。
「…解体。」
解体魔法を唱え、周囲が一瞬緑色の光に包まれた。
光が消えた後は既に魔物の姿はなく、残ったのは一本の牛のように軽く弓なりに曲がった角。
同じ様にラングスイルにも解体魔法を唱え、そちらからは鋭い刃のような長い爪と、緑の布が残る。
それらは一度アイテムボックスに格納すると、所有者にアイテムの名前が分かるようになるのだ。ちなみに詳細は鑑定能力がないと分からず、ハルは勿論所有していないので不明のままである。
「牛角と鋭い刃爪、緑の魔布…か。これだけダメージ受けて、体力回復薬をMとLを使って…。割り合わねぇ~。」
項垂れるハルだが、経験値はそれなりに付与されているのだ。
ギルドに申請すれば、ミノタウロスの分の報酬も得る事が出来る。ただ体力回復薬は高価な為、総じて大した利にならないだろう事だけだった。
「あ、あの…。」
水の中で項垂れてハルに、戸惑いを乗せた言葉を投げ掛けてくるエディー。
一頻り泣いてスッキリしたらしく、もうその瞳に恐怖は残っていない。
「ん?…あぁ、お姉さんを捜さなきゃね。」
思い出したように告げて立ち上がったハルだったが、エディーの表情は固かった。
「…どうしたのさ。」
「もう…、お姉ちゃんいない。」
呟くように小さな声で答えるエディー。視線はハルの足元に向けられていた。
「ん?どういう…。」
「お兄ちゃんが…倒した…。」
「はぁっ?!」
問い掛けた答えが予想外過ぎて、ハルは思い切り素で驚く。
「倒した…って、ラングスイル?!」
まさかミノタウロスではあるまい、と思いつつも問い直した。
それに深く頷くエディーである。
驚きに目を見開くハル。魔物が人を逃がすなど、聞いた事もなければ、勿論見た事もないのだ。
魔物にとって、人はただの餌でしかない。食し方は違えど、己の欲求を満たす道具の一つなのだ。
「マジ?」
再度問い掛けたハルに、エディーは真っ直ぐ視線を向けたまま、迷いなく頷く。
どうやら、嘘や冗談ではないらしかった。




