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ハル・クロフォードの場合  作者: まひる
吸血鬼
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95

「は~…っ」


 大きく肩で呼吸するハル。


「大丈夫?エディー。」


 そして、硬直したように動きを止めていた少年に問い掛ける。


「…ふ…えっ…、うわ~…、怖かった~っ。」


 泣きながら訴えるエディーは、見たところ首の軽い裂傷だけのようだ。


 これも、強化魔法をかけていたおかげだろう。


「ん、良く頑張ったな。」


 ニッコリと笑みを向けるハル。


 そしてミノタウロスの頸部(けいぶ)に突き刺したままだったレイピアを引き抜いて(さや)に納めると、その魔物に手を伸ばして直接()れる。


「…解体(ブレイク)。」


 解体魔法を唱え、周囲が一瞬緑色の光に包まれた。


 光が消えた後は既に魔物の姿はなく、残ったのは一本の牛のように軽く弓なりに曲がった角。


 同じ様にラングスイルにも解体魔法を唱え、そちらからは鋭い刃のような長い爪と、緑の布が残る。


 それらは一度アイテムボックスに格納すると、所有者にアイテムの名前が分かるようになるのだ。ちなみに詳細は鑑定能力がないと分からず、ハルは勿論所有していないので不明のままである。


「牛角と鋭い刃爪、緑の魔布…か。これだけダメージ受けて、体力回復薬(リカバー)をMとLを使って…。割り合わねぇ~。」


 項垂(うなだ)れるハルだが、経験値はそれなりに付与されているのだ。


 ギルドに申請すれば、ミノタウロスの分の報酬も得る事が出来る。ただ体力回復薬(リカバー)は高価な為、総じて大した利にならないだろう事だけだった。


「あ、あの…。」


 水の中で項垂(うなだ)れてハルに、戸惑いを乗せた言葉を投げ掛けてくるエディー。


 一頻(ひとしき)り泣いてスッキリしたらしく、もうその瞳に恐怖は残っていない。


「ん?…あぁ、お姉さんを捜さなきゃね。」


 思い出したように告げて立ち上がったハルだったが、エディーの表情は固かった。


「…どうしたのさ。」


「もう…、お姉ちゃんいない。」


 呟くように小さな声で答えるエディー。視線はハルの足元に向けられていた。


「ん?どういう…。」


「お兄ちゃんが…倒した…。」


「はぁっ?!」


 問い掛けた答えが予想外過ぎて、ハルは思い切り()で驚く。


「倒した…って、ラングスイル?!」


 まさかミノタウロスではあるまい、と思いつつも問い直した。


 それに深く頷くエディーである。


 驚きに目を見開くハル。魔物が人を逃がすなど、聞いた事もなければ、勿論見た事もないのだ。


 魔物にとって、人はただの餌でしかない。(しょく)(かた)は違えど、己の欲求を満たす道具の一つなのだ。


「マジ?」


 再度問い掛けたハルに、エディーは真っ直ぐ視線を向けたまま、迷いなく頷く。


 どうやら、嘘や冗談ではないらしかった。


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