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ハルは三つある内の一つの光魔法を操作し、その影を照らし出す。
そこには牛の頭をした筋骨隆々の怪人、ミノタウロスがいた。
正面にエディーとラングスイル、左側にミノタウロス。四方は壁に囲まれ、足元は膝まで水に浸かっている。
叩き落とされた衝撃の為、既に飛行魔法は解除されていた。
「ミノタウロス…。さっきの攻撃には驚いたよ。」
チラリと視線をやり、苦々しくハルが告げる。
先程ハルを殴り付けたのは、他でもないミノタウロスだ。防御魔法だけではなく、強化魔法も併用しているハルを傷付ける程の怪力。
あれはラングスイルには出来ない。
思えば人間の血を好むラングスイルが、遺体がバラバラになる程の残虐な食し方をする筈もなかった。
「まさか、強化魔法をぶち破るとはね。それに…、ラングスイルとミノタウロスが共存してるなんて、どういう風の吹き回しだよ。」
苛立ちを乗せた言葉を紡ぐハル。
体力回復薬Mでは回復しきれていない為、表面上は損傷が見えないが、体内には受けたダメージがほぼ残っている。実質、先程のダメージの半分弱が回復しただけだ。
「お兄ちゃんっ!」
エディーの悲鳴が水路に響く。
どの様な攻撃をしようか思考を巡らせていたハルは、ハッと意識をエディーに向けた。
ラングスイルがエディーに絡めた爪を引いた為、彼の細い首に食い込んでいる。長い爪はそれ自体が刃物のように鋭利であり、触れた場所から赤い筋が流れ出ていた。
「バッ…、それ以上その子を傷付けるなっ!」
カッとなって叫ぶ。
その為、その間に練っていた魔力は霧散してしまった。そしてその瞬間を狙って、ミノタウロスが再びハルに拳を振り下ろしてくる。
「ぐっ!」
気付いたハルは即座に左腕でガード。しかし、ミノタウロスの攻撃は防御魔法と強化魔法でも完全に受け止められないのだ。
そのまま叩き付けられた拳の勢いを殺しきれず、水中に沈められる。
「お兄ちゃんっ!?」
拘束されているエディーは、ただ叫ぶ事しか出来なかった。
下手に動けば、己の首に当てられた凶器が食い込む。
強化魔法を纏っているものの、あくまでもそれは肉体の強化だ。そして集中的に同一箇所にダメージを受け続ければ、それは崩壊を意味する。魔法は万能ではないのだ。
防御魔法も同じく、通常時の肉体に鎧を纏うようなもの。補助的な役割であって、完全な世界との隔絶ではない。
ザバッ、と水から立ち上がったハル。だがその左腕はダラリと下がり、肘から先が赤黒く変化していた。
光魔法に照らされて見えた、ハルから滴る滴は赤く、彼自身も大きく肩で呼吸をしている。俯いている為に表情は見えないが、かなりのダメージを受けている事だけは分かった。




