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「エディー。俺が見えるところにいろよ?」
エディーにも飛行魔法をかけてやり、二人で地下水路の空を行く。
勿論ハルの肩にはハクトウワシのジェフが乗っているが、エディーの事は我関せずといった態度だ。
「あ…っ、お姉ちゃんの声が聞こえたっ!」
声を抑えつつも、興奮が隠しきれないエディー。
捜索魔法を掛けているハルは、それを分かって幾重にも分かれた地下水路の道を選んで飛んでいる。
「お姉ちゃん、今行くよっ。」
ハンターであるハルと出会った事で、先程まで震えていたエディーは勇気一杯の様子だ。
かといって、彼一人が何か出来る訳ではないだろう。
「あのさ、エディー。一つ約束。俺がダメだと言ったら、その場から動かない事。例えそれが君のお姉ちゃんという人がらみでも、だ。」
ハルはエディーの前に回り込み、真っ直ぐ視線を向けて言い聞かせた。
「う、うん。」
戸惑いつつ、それを了承するエディー。だが、深意は分かってはいないだろう。
それでも、ハルは告げなくてはならなかった。
■□■
「…っ。」
幾度目かの嘔吐をしたエディー。
ここは幼い少年の精神には、キツい場所である。
「平気になれ、とは言わない。けど、現実だ。」
ハルはエディーの背を擦り、少しでも身体の負担を和らげてやろうとしていた。
だが、一番良いのはこの地下水路からの脱出。
少年の嘔吐の原因は、この地下水路に多数放置された遺体、なのだから。
「う…、ん。分かってる…、ボクは…お姉ちゃんを助けるんだから…っ。」
吐瀉物で汚れた口元を腕で拭い、エディーは顔を上げた。
まだ心は折れていないようである。
必死に地下水路内を逃げていた時には気付かなかっただろうものが、ハルの飛行魔法で冷たい水から離れ、淡い光とはいえ光魔法で周囲の視覚を確保出来ているから分かるのだ。
この地下水路は、子供のモノと思われる肉体の一部や骨が散乱している。明らかに魔物の食べ残しだった。
予想をつけていたのはラングスイル。だが、ラングスイルは吸血種である。よってこの様な無惨な遺体が残るような食し方をする筈がなかった。
「そうだな。…エディーは、何にここへ連れてこられたんだか覚えてるか?」
「…うん。女の人…だと思ってた。皆で遊んでいた時に、時たま見かける人だったの。でもボク、見たんだ。頭の後ろに大きな口があって、そこで噛み付いた人がどんどんシワシワになってくから…血を吸ってるんだって、気付いたんだ。」
ハルの問いに答えながら、エディーは自身の身体を抱き締める。
連れ去られ、この地下水路で魔物の食事風景を見たエディー。良く逃げられたと感心する程だ。
「エディーは運が良かったんだな。魔物が食事に気をとられていたってのもあって、逃げられたんだと思う。普通、自分の獲物を逃すような事はしない…から…。」
ハルはそう告げつつ、違和感を感じる。
そうなのだ。魔物であれ野性動物であれ、一度捕獲した獲物をそう易々と手放す事はしない。
何か…意図するものがない限りだ。




