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「バカめっ!」
機を狙ったかのように、男が勢い良く剣を降り下ろす。
ガンッ!!
しかし、岩に当たったかのような衝撃と共に、男の持つ両刃の刀身が弾かれた。
弾かれつつも目を見開く男。不格好な体勢のまま、後方へと倒れていく。
「バカなのは、どっち?大体それが当たったら、普通なら死んじゃうじゃん。ってか、大怪我?本当にその無駄に大きな頭、中身入ってんの?」
呆れたように両手を左右に広げてみせるハルだ。
勿論、わざと怒りを煽っている。
「こ、このっ!!」
倒れそうな体勢から、即座に片足を後ろへずらして体重を支え、再度怒りを込めた視線を向ける男。
既に目的は変わり、殺意が沸いていた。
「おっさん、自分の立場を分かってる?…ハンターは人を殺めてはならない。これ、常識だよね。正式な決闘なら立会人が必要だし、そもそも町の中でやっちゃダメだしねぇ?」
ハルは男からの攻撃を受けつつ、静かに…いや、楽しそうに告げる。
ちなみに刀身は全くハルの身に届いてはおらず、全て空で弾き返されていた。
「くそっ!このっ!!」
怒りの為に我を忘れた男にとって、そのハルの言葉は更なる怒りを煽るだけである。
だが、ここは居住区。
これだけ派手に音を立てれば、寝た子も起きようものだ。
「おい、お前っ!何をやっている!」
何処からか通報を受け、自警団が駆け付けて来たようである。
「な…っ?!」
驚愕する男だったが、周囲からの反応からして、己が明らかな黒。
武器を手に、生身の人間相手に攻撃をしているのだ。しかも目撃者が大勢いる。いつの間にか、遠巻きに町の人達の視線を浴びていたのだ。
「お前はハンターかっ?」
「取り押さえろっ!」
「ちょっと待ってくれ!お、俺の話を聞いてくれ!」
青の鎧を着た男達5人がかりで倒され、地面に押さえ付けられた男は、そこで必死に言い訳を叫ぶ。
「煩いっ、黙れ!傷害の現行犯につき、逮捕!」
「言い訳は檻の中で聞いてやる!」
一切の情状を考慮する事なく、後ろ手に拘束される男。
いかな巨躯を持つ男とはいえ、自警団は魔物も相手に出来る守りの兵士達だ。後ろ手に拘束されて周囲を囲まれた後では、尚更逆らう事など出来よう筈もない。
「連れていけ。」
隊長らしき男が指示を出し、もう一人を残したまま男は連行された。
「大丈夫ですか?あ、…貴方様はっ。」
そして被害者側であるハルに視線を向けた途端、驚きに目を見開く。
闇の中でいっそうの黒を示すその髪と瞳は、王都から離れたここ、オークショットでも知られていた。
「黒の魔術師…。」
隊長とおぼしき男と共に、残ったもう一人の自警団の男が漏らした声。
畏怖と畏敬の念を込め、人々はハルの事をそう呼ぶ。
ハルはその魔法能力の高さから、魔術師と呼ばれて恐れられていたのだ。




