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子供を拐う。
そして、大口の歯形がついていた。
それらの条件は、ハルの頭の中で一つの魔物の名前を上げる。
「ラングスイル…かな。」
そう言いながら立ち上がるハル。
同時に舞い上がった夜風が、ハルの黒髪を遊ぶように撫でていった。
ここはオークショットの町の中、ハルが本日の宿を取った建物の屋根の上である。
今日は一日町を歩き回り、人々から様々な情報を得た。容姿が美しく、緑のローブを纏っている長い髪の女性の姿も目撃されているらしい。
それらを統合すると浮かぶ、一つの魔物…ラングスイルとは、子供の血を好んで吸う吸血鬼。
足首まで届く黒く長い髪と、恐ろしく長い爪をしている。そして首の後ろには、髪で隠された口があるのだ。
「ジェフ。お前は待ってな。さすがに目立つ。…風翼。」
ハルは肩から屋根の上に鷲を下ろし、風の魔法を身に纏う。
子供を拐うのならと、ハルは自分が囮になる事を思い付いたのだ。
さすがに16歳では子供とは言えないが、ラングスイルは若い人間の血肉が好物。この町に巣くっているのならば、前回の補食から月日が経っている筈である。
「まだこの町にいるんなら良いけど。」
フラフラと歩きながら、ハルは夕食後の散歩でもしているかのように辺りを見回しながら徘徊していた。
「おぅ、何だ?坊主…こんな時間に外出とは、誉められたもんじゃねぇな?」
大きな身体の男が建物の蔭から出てきた、と同時にハルの目の前に立ち塞がる。
その風体からハンターである事は分かるが、王都のギルドメンバーではなさそうだ。
「俺?」
笑顔を見せ、ハルは首元から記録媒体を取り出す。
「な…坊主、ハンターか?」
「そ。俺、仕事中~。」
驚く男をよそに、その横を通り過ぎようとした。
だが、素直に通してくれる気はないようである。太い腕で道を塞がれた。
「おい、待てよ。…こんなチビが、ハンター?」
上から覗き込むようにして、ハルの顔を見回す男。
ハルが180センチの身長…実際には179センチだが…とにかく、小さい訳ではないのだ。ただ、その男が2メートルを越える筋肉質の大男というだけ。
そして筋肉質ではあるが細身のハルは、尚更その男より小さく見える。男は、筋肉だけではない巨大な腹を壁に、一歩も引かなかった。
「邪魔なんだけど…、はぁ…。俺がハンターじゃ、おかしい?」
僅かに苛立ちを乗せたハルの言葉に、その男は気付かない。
13歳の頃からハンターをやっているハルにとって、見た目で人を判断するだけのバカは腐るほど見てきていた。だが能力のない者程そう言った傾向がある為、牙を剥いてきた相手は全て叩きのめす事にしている。
勿論、相手はそれを知ってか知らずか、早々と挑発に乗るので簡単だった。




