80
■□■
ハルがクロフォード邸に到着したのは、まだ太陽が真上に登る前である。
「ダン~?…いないのか~?」
屋敷中を探し回り、首を捻るハル。
自室にも、いつもいる筈のリビングにもいないのだ。
「…っかしいなぁ。いつもならここで、マッタリと昼寝をしてるのに。」
頭を掻きながら外に出る。
普段こんな時間に帰れば、何を置いても飛び付いて来るダンがいる筈だった。
「そんなに怒ってるのかなぁ。…家出?」
腕を組んで考えるハル。
ハルにとっては弟のような存在のダンだが、自主性を尊重したい。四六時中束縛したくはないし、何よりももう子供…幼獣ではないのだ。
「はぁ…、俺が構いすぎなのかな。確かに、もう成獣だからなぁ。…あ~、ダメだ。変に考え込んじまう。依頼受けに行こうっ。」
手荒く髪を掻き毟ると、ハルは再度ギルドに足を向ける。
ジェフはハルの左肩から彼の髪を軽く引きながら、屋敷の後ろを気にしていた。
「何だよ、ジェフ。俺の髪は食い物じゃねぇからな?」
それでもハルはそれに気付く事なく、屋敷を後にしたのである。
屋敷の主が出掛けた後、屋敷裏に隠れるようにしていた黒豹のダンが姿を表した。
(…ハル…、俺…要らない?)
金色の瞳を揺らしながら、既にいない彼を思う。
突然ハルと一緒にやって来た大きな鳥。今も彼の肩の上にいるだろう姿を思い浮かべ、自分は頻繁に外へ連れて行ってもらえない事に気付いた。
(俺…より、鳥…が良い…かな)
幼い頃は常に一緒にいたのだが、今のダンはハルよりも大きい。さすがに町中に出るのに、黒豹と一緒という訳にもいかないのだ。
ハルがダンと町を歩くのは早朝、人があまり起きていないような時間帯のみ。もしくは人通りの少ない道を通ってギルドに行くくらいだった。
(俺…、邪魔…かな。…黒豹、だから…かな)
初めて考える。
今までは当たり前にハルと一緒だった。拾われて…助け出されてからずっと、ダンにはハルしかいなかったのである。
父親もアンディも、ダンとは距離があった。当たり前に、人と黒豹なのだから。
ハルのように接してくれる存在は他になく、自分の親も記憶にない。鎖に繋がれて狭い小屋にいた事しか覚えていなかった。
だからこそ、ハルが全てだった。抱き締めてくれる温かさも、時に叱る厳しさも。
ダンは、自分が幼獣でなくなったのは分かっていた。それでもハルと一緒にいたかった。甘えたかった。
空を見上げる。
太陽が真上に来ていた。




