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「いえいえ、そんな筈がないじゃないですか。ただ、パーティー分配よりも利が良いかと思いまして。でもそこまで言われるのでしたら、お言葉に甘えさせていただきます。…風刃。」
ニッコリ微笑みながら、通路の天井を削る程の巨大な風の刃を放つハル。
込められた魔力は凄まじく、インセクトレイドがこちらに飛び掛かるタイミングで放たれた刃は、避ける事も弾かれる事もなく魔物を一刀両断する。
「…初めから一撃でやりなさいよ。」
本当に手早く討伐を完了してしまうハルに、ジミーは白い目を向けた。
「いや~、そんなに誉められても…。」
「誉めてないっ!」
ハルが後頭部に手を当てて笑顔を見せたが、すぐさま否定するように怒鳴るジミーである。
それでもハルの頭に巻いた布が赤く染まっているのが気になるのか、ジミーは静かに手を伸ばした。
「って言うか、まだ出血が収まっていないのかい?」
「問題ないですよ。それと、頭は血が出ない方が危ないですからね。さぁ、サクッと解体しちゃいましょう。…解体。」
伸ばされたジミーの手を取り、ハルはインセクトレイド女王の2分割された肉片に触れさせる。
そのまま解体魔法をかけ、直後、周囲が緑色の光に包まれた。
「ちょ…っ!?何で私の手を使って、アンタの魔力で解体してんのさっ。」
「ん?…共同作業的な?」
牙を剥くジミーに、ハルはキョトンとしながら首を傾げる。
パーティー分配により、誰が解体してもアイテムは自動分配され、アイテムボックスに格納されるのだ。ただし、一定距離にいなくてはならない。経験値分配よりも格段に距離が短いのだ。
その為、このアイテムはクラウディアとジャスティンには分配されない。
「…どうするのさ。外の二人にも渡すのかい?」
「まさか。正当な戦闘報酬ですからね。経験値が分配されるだけでも、ありがたいと思ってもらわなきゃ。」
伺うようなジミーに対し、ハルは笑顔を見せるだけだった。
目の前に広がるのは、餌にされていた人間の物と思われる肉片と、まだ生まれてもいないインセクトレイドの繭だけ。
「さて、後処理しますか。」
「待って。その前に治療をさせなさい。」
立ち上がって魔法を放とうと手を突き出したハルだったが、ジミーは即座にその手を掴んで引き下げた。
「何ですか、ヘイリーさん。大丈夫ですよ。」
「私が気になるの。女じゃないんだから…、私を庇って怪我されるなんて、本当にムカつく。次に同じ事をしたら許さないからね、バカハル。」
不満を訴えたハルをいなし、ジミーはアイテムボックスから布と傷薬を出す。
「…本当に大丈夫ですって。俺、常に防御魔法を纏っていますし。これも出血の割りに大した傷ではないんで…。」
「黙りなさい。私が嫌だからって言ってるでしょ?本当に全く…。」
もはやハルが何を言おうが、ジミーは決して取り合ってはくれなかったのだ。




