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「あ、アンタねぇっ!」
怒鳴りつつも、ジミーはハルの頬に手を伸ばす。
赤い一筋は先程より量を増し、顎にまで伝っていた。
「…怪我しないでよ。ムカつくじゃないのさ。」
それに触れる事なく、ジミーはムッとした表情でアイテムボックスから布を取り出しす。
そしてグイッとハルの襟首を引き下げ、背の高い彼の傷口を自分に近付けた。
「ちょ…、ヘイリーさん?」
「煩いよっ。じっとしてなさいっ。」
焦るハルを黙らせ、ジミーは手早く頭に布を当てて止血の為に強く別の布で強く巻く。
「あ~…、ありがとうございます?」
終始ムッとしているジミーを前に、ハルは戸惑いつつ礼を口にした。
「何でそこで疑問系なのさ、バカハル。本当にムカつく。」
手当てが終わったのか、いつまでも中腰のままのハルを軽く突き飛ばし、ジミーはプイッと顔を背ける。
「…風壁っ!」
その様子に一瞬呆けるハルだったが、次の瞬間には背後からのインセクトレイドの攻撃に対して、防御魔法を展開する事で防いだ。
ガキン!…と鋭い音が響く。
勿論、そっぽを向いていたジミーはその音で驚き、目を見開いていた。
「ったく、邪魔しやがって。せっかくヘイリー姉さんの珍しい顔が見られてたのに。」
「な、何さ…。」
インセクトレイドに文句を言うハルだが、ジミーは狼狽えてしまってその言葉へまともに言い返す事が出来ない。
「…風刃。」
ジミーを背に庇ったまま、ハルはインセクトレイドに風の刃を放った。
女王はその魔法の刃を矢の刺さった腕で受け止め、弾き返す。
「ふぅん?これくらいじゃ切れないか。んじゃ、もう少し強く。…風刃。」
片方の眉を器用に上げて楽しそうに微笑んだハルは、魔力を込めて先程より威力を高めた魔法を放った。
再びインセクトレイドは自身の腕で受け止めようとしたのだが、威力の増した風の刃は、いとも簡単に魔物の腕を切り落とす。
ズバッ、…ボトッ。意思のない肉の塊として地に落ちるそれ。
「ふふん、どうだい。だいたい、魔物の癖に俺の魔法を片手で防ごうなんて、百年早いっての。」
腰に手を当て、胸を張るハル。
「アンタ、性格悪いねぇ。」
それを後ろから見ていたジミーは、呆れながらそう告げた。
「え~、そんな事ないですよぉ?」
「…私に言い訳はいらないから。ほら、前。凄く怒ってるみたいだね。」
軽く振り向くハルに、ジミーは溜め息を付きながら顎で注意を促す。
「ヘイリーさん、やります?」
「…私に振らないでよ。いらないから。って言うか、嫌がらせ?」
先程から、ハルに明らかな攻撃力の差を見せつけられていた為、ジミーは目を細めるのだった。




