表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ハル・クロフォードの場合  作者: まひる
夢魔
7/322

「ここだ…。」


 ハルを自身の寝室まで案内してきた筈なのに、戸惑いがありありと見えるウィリアム。


 それでももう、ハルに退却という言葉はない。


「ありがとうございます。本日は申し訳ございませんが、別の場所でお休みくださいませ。」


 (うやうや)しく頭を下げるハルだ。


 暗に手出し口出し無用との意思表示である。同行(どうこう)しないのならば、ここから先はハルだけの道となるからだ。


「…分かった。………本日中には…いや、何でもない。報告は明日頼む。」


 了承の意を(ひょう)しながらもなかなか立ち去らず、(ようや)く何かを言いかけてそれでも口ごもり、結局そのまま引いたウィリアムだ。


 ハルはその背を見送り、闇の中に消えたのを確認してからやっと扉に向き直る。密かに溜め息をつき、そして案内された部屋の扉を開けた。


 貴族の、しかも当主の寝室だけあって作りは豪華である。だが灯りのない部屋の中は薄暗く、妙な湿り気を感じさせた。


「結構居座ってるね。」


 ハルは周囲に警戒を(おこた)る事なく、ゆっくりとベッドに近付いていく。


 まだエンプーサは来ていないが、魔物の気配が濃厚に残っていた。これだけ(おか)されながらも、(いま)だ自己を保っていられたウィリアムに、ほんの少しだけ感心を覚える。


 夢魔に見せられるのは悪夢であり、魔物が飽きるまで血や精気を奪われ続けるのだ。勿論、飽きられたらそこで喰われるか殺されるだけだが。


「当主の肖像画を見る限りでは、だいぶダイエット出来たみたいだけどね。しかも肖像画って9割美化されてるから、元々を想像するともっとか。まぁ、今のあれなら嫁の来手(きて)もありそう。エンプーサ様々って…?」


 クスクスと一人で想像に笑っていたハルだが、不意に感じた気配に意識を戻す。


 開け放たれた窓枠に突如として現れた魔物。


「どうやらご登場だね。うん、これの何処が引かれるんだか。」


 ハルはそれを視認し、やはり納得がいかずに首を(すく)めた。


 顔と胸は人のそれだが、他は明らかに異物感満載である。勿論これは登場時にターゲットとした人間の好みに応じて変化する為、魔物本来の姿は余程見せないのだ。


 そしてハルが思考している間に、エンプーサは完全な人形の形態をとる。恐らくそれが、ウィリアムの好みの女性像なのだろう。


 そして、当たり前ながら一糸纏わぬ姿である。だがそれにもハルは全く心動かされる事はなかった。


「悪いけど君、お役ごめんだから。」


 笑顔を浮かべながらも、ハルの討伐が開始された。


 罵詈雑言(ばりぞうごん)に弱いとは言え、ハルは元から追い払う為にここに来た訳ではない。二度と現れないよう、完全に討伐する事が最終的に求められているのだった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ