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ベチャッと地面に落ちる幼体。
悶えるように蠢く幼体を見た為か、インセクトレイドの女王が突然ハルを威嚇する。
「…風刃。…風刃。…風刃。」
それでも魔法以外の言葉を発する事なく、ハルは続けざまに幾つも風の刃を幼体に放った。
無惨にも砕け散る幼体。抵抗など出来ない、ただの大きな芋虫なのに。
「ちょ…っ、ハル?!」
慌てたようにハルの肩を引くジミーである。
「…何ですか、ヘイリーさん。」
無表情のまま、いつもとは違った呼称を使うハル。
「あ、アンタ…大丈夫っ?」
冷たい黒い瞳を向けられて心が折れそうになるも、ジミーは負けじとハルの肩に置いた手に力を入れた。
「グチャグチャじゃないのさ。ちょっとやり過ぎでしょ?」
「………あぁ…、それもそうですね。」
ジミーの指し示す方向へ視線を向けたハルは、暫く見つめた後、のんびりとした口調で答える。
「汚いですね。失礼しました。…火炎球。」
そう告げて幼体の残骸を火の玉で消し炭にするハルは、やはりいつもの彼ではなかった。
「ほ、本当にいい加減に…っ。」
ハルの変わりようにカッとなったジミーは、掴んでいた彼の肩を思い切り自分の方へ引く。
だが次の瞬間、逆に手首を掴まれてハルの胸に抱き入れられた。
そしてハルの身体越しに感じる衝撃。
「な…っ?」
何が起こったのか分からず、ジミーはすっぽりと包み込まれたハルの胸の内で、ただ瞬きを繰り返していた。
「…さすがに、痛いですね。」
どれ程の衝撃をハルの身体越しに受けていたのか、不意にいつもの口調が耳に響く。
同時に抱き締められていた腕の力が緩み、ジミーは思わずハルを見上げた。
「なっ?!…何やってるのよ、アンタっ!」
驚き張り上げる声。
ハルのこめかみから、ツツッと赤い筋が降りてくる。
「いや…、俺のせいではないんですけどね?」
ヘラッと笑ったハルはジミーの良く知るハルで、それはとても安心したのだけれど、次の瞬間には現状を思い出した。
「バカじゃないのっ?!何を素直に攻撃を受けてるのさっ。」
ジミーはハルに怒鳴りつつ、彼の肩越しで視界に入ったインセクトレイドの振り上げた腕へ、右手に持ったままだったクロスボウを構えて射つ。
「ひゅ~。この体勢でも狙いを外さないのは、さすがですね。」
振り向いてその矢の行方を確認したハルは、わざとらしく手を叩いてみせた。
ジミーの放った矢は、連射された3本共がインセクトレイドの腕に刺さっている。
「ば、バカじゃないのっ?!」
「誉めると照れるんですよね、ヘイリー姉さんは。ツンデレ属性ですか。」
クスクスと笑うハルに、先程の刃の様な危うい鋭さはなかった。




