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クラウディアとジミーをインセクトレイドの巣穴外に残し、ハルはジャスティンと共に岩場に開けられた洞窟へと入っていく。
「…照明。」
ハルの光魔法で、薄暗い横穴は前後10メートル程が屋外のように明るく照らされた。
照らす範囲は魔力の込め方で変わる。
「光の魔法も使えるのか。」
硬い声で問い掛けてくるジャスティン。
ハルの後ろ、一定距離以上近付いては来ないのだが。
「そりゃ、ないよりはあった方が良いですよね。」
それほど得意ではないのだが、ハルはあえて口にしなかった。
自らの手の内を晒すのは愚かである。
「それにこんな狭い横穴じゃ、火を焚いたら俺達の空気の方が危ないです。」
おどけて両手を軽く上げて見せたハル。
だが実は、ジャスティンを率いるように前を歩きながらも、ハルは一瞬たりとも気を抜けないでいた。
ジャスティンの武器であるクレイモアは、その大きさからこの洞窟の中で振り回すには向いてない。
それでも、気を許した訳でもない者を自らの背においているのだ。
ましてや、自分に好意を抱いていないと分かっている相手を。
「…そうか。」
ジャスティンは一言だけ答えた。
そしてそのまま、無言で二人は歩く。
いつの間にか周囲は岩ではなく、泥を加工して造り上げた外壁に変わっていた。
それはインセクトレイド独特の巣穴形成方法であり、一度土を口に含んでから、体液と共に吐き出して造る。その固さは泥より石に近く、叩いても簡単に崩れはしない強度を持っていた。
「巣の中腹に来たって事ですね。…けど、おかしいな。」
周囲に警戒を払いながらも、ハルは顎を手で触れるように呟く。
自分達の足音と風の音しか聞こえない横穴では、その小さな呟きすらジャスティンの耳に届いた。
「何がだ。」
「あ、いえ…。インセクトレイドって巣の外の兵隊員は勿論ですが、巣の内部に多くの作業兵を配置している筈なんです。本来、この巣穴自体が一種の城塞となっているんですよね。」
ハルは、昔に父親から聞いた事を思い出す。
「何…?」
訝しむジャスティン。
「これ…、結構ヤバイかもですね。」
知識が警告を発していた。
「インセクトレイドって、蜂なんかと一緒で分蜂…つまりは巣別れをするんですよ。この様子だと、分蜂した後の新女王の産卵準備中ですかね。そもそも、外に兵隊員があれだけですむ筈がないんです。」
「つまりは、奪われた人馬は巣別れの為の輸送用と言うのか。」
あまりにも静かな巣の中、ハルは緊張した面持ちで頷く。
そしてインセクトレイドはこの時期、非常に攻撃性が増すのだ。次の巣作りの為に慌ただしく動くからである。




