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「クラウディア。今の自分の状況、分かってる?」
急に真顔で問い掛けるハル。
突然態度を変えたハルに戸惑い、クラウディアは興奮していた己を振り返る。
「…何よ。ここから落とすつもり?」
強気な態度は変わらないが、クラウディアは現実に目を向けていた。
現状、ハルの魔力で空中に浮遊している。つまりは、彼の意思一つでどうとでもなるのだ。
「まさか。俺はこれでも、王都トラヴィスで生活をしているからね。ロイド王国からも追い出されたくはないし、処刑されるのも真っ平だ。」
両手を軽くあげて見せたハルは、そう言いながら自分の方も興奮していた事に気付く。
緩くいつものように笑みを浮かべ、ハルは力を抑えていた捜索魔法へ意識を向けた。
「まだヘイリー姉さん達は着いてないようだね。まだ間に合うから、ちょっと飛ばすよ?」
そしてクラウディアに向き直ると、ニッコリと問い掛ける。
「何よ。さっきの話はおしまい?」
不満げに睨み付けてくるクラウディアだが、ハルは笑顔でそれを受け止めた。
「ん、おしまい。今は仕事中だからね。ハンターとしては、受けた仕事は最後までこなさなきゃ。」
「それはそうだけど…、何だか腑に落ちないわ。」
「そう?じゃあ、ゴメンね。」
正論にムッとしながら呟くクラウディアに、ハルは軽く首を傾げた後、すぐに謝罪の言葉を紡ぐ。
「そんなすぐに謝るなん…って!」
クラウディアの苦情は、言い終わる前に途中で掻き消された。
ハルが飛行魔法の方向性を変えたからである。
それまで穏やかにたゆたうだけであった浮遊が、突然ある方向に向けて高速で行われた。つまりはハルが設定した目的地へ向け、かなりの速度で飛行を始めたのである。
「あ、忘れてた。…風壁。」
不意に呟くハル。
空中を生身のまま、高速で移動しているのだ。
その肉体にかかる圧力は強く、常日頃から防御魔法で守られているハルと、そうでないクラウディアの負担は明らかに異なる。
まともに呼吸をする事が出来ずに青くなっているクラウディアに気付き、遅がけながら魔法を使ったのだ。
「…ハル。今の、嫌がらせでしょ。」
漸く人心地がついたのか、口を覆っていた手を退けてクラウディアは涙目のまま睨む。
「あ~…、本当に忘れてた。でも、先に謝ったでしょ。」
「何の謝罪か分からない言葉なんていらないわよっ。死ぬかと思ったじゃないっ。」
ニッコリ笑みを返すハルだが、クラウディアの怒りは収まらなかった。
防御魔法で守護され、普通に立っているかのような会話。それでも、実際は矢のように一直線に目的地へ向かっている。
ちなみに今のハルは、飛行魔法と捜索魔法、そして防御魔法を同時に使っていた。




