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どうやらクラウディアは、一人のハンターとして見てほしいらしい。
だが立場が立場なだけに、なかなか難しい相談だった。
「ハルは貴族が好きではないんでしょ?」
「…好きな奴って、大概がそのお零れを狙っているだけじゃん。」
クラウディアの含んだ問いに、ハルは呆れたように軽く手を振るう。
ハルは平民である自分を恨めしいと思った事はないが、貴族の横暴さには困っていた。
そうかと言って反抗する訳でもない。
国の主要なものは当たり前のように貴族の手にあり、下手に逆らえば自分だけではなくただの知人にまで被害が及ぶからだ。
「それは間違ってはいないわね。だからこそ、あなたみたいな人が珍しいの。私の周りにはいなかったわ。」
「俺、クラウディアを樽から出しただけだけど。」
何をそこまで恩に感じているのかが分からないといった風に、ハルは肩を竦める。
「私が誰だか分からず?」
「いやいや…あの場合、誰だってそうするんじゃないか?」
小首を傾げてくるクラウディアは、自然と上目遣いでハルを見た。大きな金色の瞳が遮るもののない空を映し、一層輝いている。
それに対し、ハルは僅かに身を引いて距離をおいた。
そうでもしないと、己の心の奥底まで見透かされそうだと本能的に感じたのである。
「誰も助けないから、私はあそこにいたんだけどね。」
「迎えが来ただろ?」
「遅いのよ。」
「ちょい待てって。あの場合、俺が助けなくてもフラトンさんが助けたとか思わない訳?」
クラウディアと口論が始まったものの、ハルは冷静に過去を振り返った。
ハルはあの時、センシュアルを格納する入れ物を探していただけである。
クラウディアを見つけたのも本当に偶然だったし、もしもハルが見つけなくても確実に居場所を突き止めて突入を待っていたジャスティンが見つけていたと思われた。
「それ、単なる吊り橋効果じゃん。お礼したいとか言って無理にギルドを移籍しなくたって、暫く時間が経てば俺の事なんか忘れたと思うよ?」
自嘲気味に笑ってみせるハル。
自分に対する興味の原因が分かり、何となく残念に感じてしまったのが本音である。
「吊り橋?何よ、それ。私はハルの人柄に興味が湧いたの。それで近くに歩み寄ってみて、もう少しあなたを知りたいと思ったわ?」
「でもそれ、違う意味で俺ってピエロだよね。クラウディア、そうやって軽々しく男に近付くのはどうかと思うよ?フラトンさんも忠告してたでしょ。」
「何が言いたいのよ。」
クラウディアとハルの口論は続いた。
互いの意見が食い違う。
ハルにはクラウディアの言葉が、物珍しい自分へ興味を持ったのだと聞こえたのだ。
少なからず抱いている好意を踏みにじられた気分になり、それでも嫌いになれない自分に苛立つ。




