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ハル・クロフォードの場合  作者: まひる
夢魔
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■□■


「だから、それじゃダメなんです。あれは魔物ですよ?きちんと拒絶して下さいって。」


 何回目になるのか、などと考えながらも言い(つの)るハル。


 ここは貴族であるマンスフィールド伯爵の屋敷で、依頼人はダフニー・マンスフィールド。現当主、ウィリアムの実母だ。


「だって…あの()は…。」


 だが説得も(むな)しく、当の本人であるウィリアムは魔物(エンプーサ)をあの()呼ばわりして(かば)う始末。


「ですから、それ自体があの魔物の手なんです。現に御当主、日に日に痩せていっているではないですか。あれに精気を吸われていっているんですよ?」


 貴族屋敷の立派な客室で、ひたすら聞き分けの悪い中年を説き伏せるハル。


 大きく溜め息を吐きそうになるが、必死に青筋を隠しつつ言葉で戦っていた。


 先日会った時には、もう少し痩せた方が良いんじゃないかと思う体型だったのだが。


「違うよ、あの()は悪い魔法使いにあんな身体に変えられてしまっただけで…。」


 このウィリアム・マンスフィールドは54歳の筈だ。


 勿論妻子もなく、母と暮らしている使えない貴族。前当主であった父ノーマンの頃に(たまわ)った伯爵の名前も、彼亡き後税収の右肩下がりで、このままだと爵位の維持すら難しい感がある。


「しっかりして、ウィリアム。貴方にはきちんとお嫁さんを捜してあげるから、あれはやめてちょうだい。」


 息子の説得に自信をなくした母親のダフニーは、泣く泣くハンターへ依頼したのだ。


 つまりは、母親にはエンプーサが認識出来ている。これは良い。家族も分からない場合が一番困難を極めるからだ。何せ、味方がいなくなる。


「っ?!(しゅうとめ)が出てきてどうするんだよっ。僕はあの()が良いんだ。」


「でも御当主は、伯爵家をお取り潰しにさせたい訳ではないのでしょう?」


「当たり前だっ。ここは僕の屋敷だぞ!」


 ウィリアムが怒りに任せてテーブルを叩いた為、訪問時に出されていたカップが音をたてて大きく揺れ、既に冷めてしまっていた紅茶が(こぼ)れる。


 人の話を聞かない、典型的な殿様思考だった。


 自身の言い分が周囲へ通らないと怒りを(あらわ)にし、短絡的に暴力に訴える。


「…あれは夢魔と呼ばれる魔物です。御当主が見る夢は何ですか?仮に本当の人間だとしても、彼女をとる事で今の地位を捨てる勇気はおありですか?」


 ハルは笑みを消し、真っ直ぐウィリアムへ視線を向けた。


 実際、ハルにとってはウィリアムがどちらを選ぼうが問題はない。困るのは依頼人であるダフニーであり、当の本人のウィリアムなのだ。


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