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「それにしても…馬も人も、何故全部連れていかないのかしら。必要なのは、人馬一対だけな理由があるの?」
クラウディアが首を小さく傾けた。
「それはまだ分からないけど、今までに教われた商団を含む集団は12組。最後の一組以外は、ね。」
ハルが思わせ振りな言い方をする。
彼が思うに、報告書には不明な点があったのだ。
「何だ、その含んだ言い方は。」
不機嫌を顕に、ジャスティンが問い返す。
「はい。最後の一組の被害は、女性ばかりが三名なんです。勿論、商団じゃないんですよね。」
真っ直ぐジャスティンに向かって答えるハル。
「何ですって?」
一番始めに怒りを見せたのはクラウディアだった。
「落ち着いて、クラウディア。…今回の仕事は、単なる魔物討伐とは違う事を知っていてほしい。最終的に俺は、拐われた人々を救出する事が目標だ。」
報告書を閉じ、ハルは三人へ順に視線を巡らす。
単に討伐だけなら、これ程の人員は必要ないのだ。
「…そんなの、生きているかどうかだって…。」
「フラトン様。ハルの言葉は希望的観測に基づく発言に聞こえるかも知れませんが、重要事項です。」
それでもジャスティンは、ハルの言葉を否定しようと口を開く。
だが、ジミーはそれを許さなかった。
貴族としての誇りなど、ここでは…王都の外では関係がない。
「拐われたのはソーントン男爵家のご令嬢であられる、ジョアンナ・ソーントン様です。そして彼女を筆頭に、男爵の奥方様のご実家から遊びにいらしていたキャロル・グウィルト様。続いてジョアンナ様のご友人であらせられるエリカ・マクスウィーニー嬢です。」
「ソーントン男爵家だと?」
被害者の名前を聞き、ジャスティンが器用に片眉を上げた。
ソーントン家は爵位こそ男爵だが、農業に於けるその活躍は目覚ましく、近年の小麦の収穫量が格段に増えたのはソーントン男爵のお陰と噂される程だった。
「それでも、捨て置かれますか?」
ジミーが確認をとるようにジャスティンに問い掛ける。
そう。被害者達は全て市井の者と蔑む事は出来ないのだ。
「…善処しましょう。」
漸くそれなりに納得をしたようなジャスティンである。
「依頼はソーントン男爵家から出ています。お三方の安否の確認とインセクトレイドの討伐が目的ですので、見つけ次第では攻撃をしないでください。魔物の巣まで案内してもらわないとならないので。」
ハルはジャスティンが落ち着いたところで、再び全員に話し掛けた。
個人プレーでは困るからだが、実際には自分自身にも課している。
どうにもハルは、魔物を見ると殲滅したくなってしまうからであった。




