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ハルの放った風の刃で、見事に一刀両断されるオーク。
本来ならばその発達した筋肉と、簡素だが身に付けている鎧によって、多少の攻撃ならば耐えられるだけの防御力を持っている。
だが、ハルの攻撃はそれを確実に上回っていた。勢い余ってその背後の壁まで切り裂いたのだから。
「…何、人の獲物を勝手に狩ってるのさ。」
それを冷たく見据え、ジミーはハルに問う。
オークは限界以上のダメージを受け、即時消滅となって消え去ってしまったのだ。
戦闘に於ける経験値の獲得はダメージを与えていた両名にその効果の割合で分配されるが、こうなってはアイテム獲得どころではない。
「あ~…、つい?」
ハルはそれに対し、言い訳すら思い付かない。
ジミーが先にダメージを与えていたのは事実で、依頼を請け負ったのも彼だ。脇から出てきて横取りした形になっているハルの現状、何も発言権はない。
「………後でその頬、張らせてもらうから。覚えておいて。」
暫くの沈黙の後に告げられた言葉に、ハルの頬が引きつった。
「…あちゃ~…。」
片手で顔を覆うハルだったが、ジミーは怒濤の如く残りのゴブリンを討伐していく。
司令塔がなくなった後のゴブリンは右往左往するばかりで、ジミーからの攻撃を避ける事すら出来ていなかった。
(ハル?)
そんなハルの様子が心配になったのか、ダンが足元に擦り寄ってくる。
普段ならば、他者がいるところで声を掛けてきたりしないのだ。それが分かっているハルはダンの頭を撫で、その手触りの良さに心癒される。
「大丈夫、サンキュ…。さてと、これを入れる物を探さないとな。」
気持ちを改め、空中に留めままにしてあったセンシュアルの塊を見た。
先程の袋は完全に破れてしまっていて、とても使えそうにない。他に入れ物はないかと見て回し、一つの樽を見付けた。
「あ、これが良いかも…っ?!」
歩み寄って樽を覗き込んだハルは、その途端息を呑む。
何故だか、その樽の中には女の子が入っていたのだ。
赤茶色の長い髪を頭頂部で一纏めにした髪型で、肌の色は白い。意識を失っているようでその瞳は固く閉ざされていたが、意思の強そうな顔立ちだ。
「…とりあえず、この子を移動させてっと。…風翼。」
ハルは飛行魔法を使い、樽の中で意識を失っている少女を静かに出す。
そして纏めておいたセンシュアルを、飛び散らないように樽の中へ収納した。
「…ふぅ。」
ハルは、知らずに詰めていた息をつく。
幾重にも魔法を多用する事により、術者は多大な精神的負担を与えられるのだ。




