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ガラスが割れる。外から何か黒い影が飛び込んできた。
ジミーはそれを認識しながらも、クロスボウに新しい矢をセットして狙いを定め、取り囲むゴブリンに撃ち込む。
衝撃と共に後ろに吹き飛び、その魔物は動きを止めた。
だが、数は一向に減らない。
「もぅ、何でこんなにいるのっ。聞いてないんだから!」
不満を口にのせつつ、別の矢を素早くセットして新たなゴブリンを射る。
ギルドマスターのアンディから受けた依頼では、建物内の調査と不正物資の押収の筈だ。貴族側が情報を隠匿していたのか、たんにそこまで調査をしきれていなかったのか。
とにかく非力な亜人種とはいえ、これ程の数をクロスボウで討伐するには限界があった。
元より、ジミーは複数攻撃の魔法を得意としない。
「っ!」
2体同時にゴブリンを射抜いた次の隙を突かれ、別のゴブリンが棍棒を打ち下ろしてきた。
咄嗟にクロスボウで防御体制を取る。が、いつまで待っても予想した衝撃が訪れなかった。
「な…、黒猫?」
衝撃を予想して閉じていた灰色の瞳を開き、目の前にある長い黒い尾を視認したジミー。
その前方には、突き飛ばされたらしきゴブリンが転がっている。
だがその言葉を受け、ジミーを守るように背を向けている太い尾は不満気味に床を打ち付けられた。
「…ハルの黒猫?な、何でこんなところにいるのっ?!」
驚愕に見開かれた瞳を睨むように、黒豹ダンの金色の視線が鋭くジミーに向けられる。
次の瞬間、ジミーの周囲を爆風が吹き抜けた。
「余所見するなんて、余裕ですねぇ…ヘイリー姉さん?」
そして聞き慣れた、ジミーにとって嫌な声。
「…ハル。」
「はいは~い。俺、登場っす。」
憎々しげに呟いたジミーの声を無視し、ハルはニコニコといつもの笑みを浮かべている。
「いや~、散歩中にダンがこの建物に飛び込んじゃいましてねぇ~。」
右手を頭の後ろに上げながら、わざとらしく言い訳するハルだった。
「…つけてたの?」
「まさかですよ~。ダンが黒猫呼ばわりされたのが気に入らなかったみたいで、なんて事ないですかね?…風爆。」
笑顔で話ながらも、ハルは次々と迫ってくるゴブリンの足元を、圧力を高めた風で弾けさせる。
「ふふん、楽しいですねぇ。王都トラヴィス内でこれだけの魔物と遊べるなんて、今日の俺ってついてますよ~。」
あくまでも楽しそうに魔物を討伐するハル。
それを前にジミーは、裏切られたとか助けられたとかいった今まで感じたモヤモヤする感情をなかった事にした。
「これは私のターゲットだよっ。アンタは黒猫と家へ帰りなっ!」
闘志を燃やしたジミーは、クロスボウを構え直して次々とゴブリンを射っていく。
その陰でニヤッとハルが唇を上げていた事など、ジミーは全く気付かなかったようだ。




