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ハル・クロフォードの場合  作者: まひる
小鬼
26/322

26

(あ…、また動いた)


 ダンの言葉に、魔法を使う事なく建物へ視線を移す。


「あ~、ダメか。やっぱ視覚だけじゃ、全く分からん。…風音(サウンド)。」


 苦笑いを浮かべた後、ハルは再び捜索魔法を発動させた。


 なるべく魔力を抑えつつ範囲を絞っての発動だったが、やはり夕方とはいえ人々が活動中は騒音が酷く、すぐにハルは頭痛を覚える。


「うん、ヘイリー姉さんが乗り込んだみたいだね。」


 眉を寄せながらも、建物内の情報を観察するハル。


 どうやら既に中では武器を使用した戦闘が(おこな)われているらしく、金属同士がぶつかる激しい音が響いていた。


「降りるよ、ダン。…風翼(フライ)。」


(うん、分かった)


 声を掛けてから飛行魔法を発動、ハルはダンと共に屋根の上から大地へと降り立つ。


 その間にも聞こえてくる音の発生源の数は減ってきており、ジミーが確実に魔物を討伐していっている事が伺えた。


(どうするの、ハル)


「う~ん…、そうだなぁ。」


 見上げて問い掛けてくるダンに、ハルは顎に手を当てて考える素振りをする。


「よし。ダン、行け。」


(え?どっちを相手?)


 ハルに右手を伸ばして指示されたのだが、ダンはターゲットが分からず問い掛け直してきた。


「いやいや、ヘイリー姉さんの訳がないでしょ。今のダンなら、小鬼(ゴブリン)相手に引けを取る事はないと思うから。あいつらの武器だけは注意して?体当たりでもすれば押し倒せるって。ただ、中を混乱させてくれれば良い。すぐに俺が入るから、無理だけはしないで。」


 苦笑いで返しながら、先々の指示をする。


 ダンにとってはこれが初めての狩り(ハント)であり、魔物との実戦なのだ。


(魔物?見たら分かる?)


「勿論。(あき)らかに、においが違うからね。あ、人間は襲っちゃダメだからな?」


 指を立てて注意するハル。


 中にいるのが魔物だけとは限らない。そして相手が黒幕だったとしても、人間の命を奪うのはハンターの仕事ではないのだ。


(分かった。俺、やってみる)


 ダンは不安を見せながらも、力一杯頷く。


「OK。怪我だけはするなよ?」


(気を付ける)


 何度も注意するハルは、野生の獣としてダンを見ていないからだ。


 勿論ペットでもなく、道具でもない。ダンはハルの家族であり、本来ならばこういった危険な場所には連れてきたくなかった。


 でも、この世界では戦う力のないものは死ぬ。黒豹のダンは、当たり前ながら猫ではないのだ。いつまでも家の中で囲ってはいられない。


 もう、ダンは立派な成獣だ。大きさも俊敏さも、人間以上の能力がある。自分がいなくても生きていく力を身に付ける為、ハルはダンに己を知ってほしいのであった。


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