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(あ…、また動いた)
ダンの言葉に、魔法を使う事なく建物へ視線を移す。
「あ~、ダメか。やっぱ視覚だけじゃ、全く分からん。…風音。」
苦笑いを浮かべた後、ハルは再び捜索魔法を発動させた。
なるべく魔力を抑えつつ範囲を絞っての発動だったが、やはり夕方とはいえ人々が活動中は騒音が酷く、すぐにハルは頭痛を覚える。
「うん、ヘイリー姉さんが乗り込んだみたいだね。」
眉を寄せながらも、建物内の情報を観察するハル。
どうやら既に中では武器を使用した戦闘が行われているらしく、金属同士がぶつかる激しい音が響いていた。
「降りるよ、ダン。…風翼。」
(うん、分かった)
声を掛けてから飛行魔法を発動、ハルはダンと共に屋根の上から大地へと降り立つ。
その間にも聞こえてくる音の発生源の数は減ってきており、ジミーが確実に魔物を討伐していっている事が伺えた。
(どうするの、ハル)
「う~ん…、そうだなぁ。」
見上げて問い掛けてくるダンに、ハルは顎に手を当てて考える素振りをする。
「よし。ダン、行け。」
(え?どっちを相手?)
ハルに右手を伸ばして指示されたのだが、ダンはターゲットが分からず問い掛け直してきた。
「いやいや、ヘイリー姉さんの訳がないでしょ。今のダンなら、小鬼相手に引けを取る事はないと思うから。あいつらの武器だけは注意して?体当たりでもすれば押し倒せるって。ただ、中を混乱させてくれれば良い。すぐに俺が入るから、無理だけはしないで。」
苦笑いで返しながら、先々の指示をする。
ダンにとってはこれが初めての狩りであり、魔物との実戦なのだ。
(魔物?見たら分かる?)
「勿論。明らかに、においが違うからね。あ、人間は襲っちゃダメだからな?」
指を立てて注意するハル。
中にいるのが魔物だけとは限らない。そして相手が黒幕だったとしても、人間の命を奪うのはハンターの仕事ではないのだ。
(分かった。俺、やってみる)
ダンは不安を見せながらも、力一杯頷く。
「OK。怪我だけはするなよ?」
(気を付ける)
何度も注意するハルは、野生の獣としてダンを見ていないからだ。
勿論ペットでもなく、道具でもない。ダンはハルの家族であり、本来ならばこういった危険な場所には連れてきたくなかった。
でも、この世界では戦う力のないものは死ぬ。黒豹のダンは、当たり前ながら猫ではないのだ。いつまでも家の中で囲ってはいられない。
もう、ダンは立派な成獣だ。大きさも俊敏さも、人間以上の能力がある。自分がいなくても生きていく力を身に付ける為、ハルはダンに己を知ってほしいのであった。




