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朝に一度訪れた貴族街の手前、古びた建物が見える位置までやって来たハルとダン。
既に時は夕刻を指していたが薄闇に紛れ、ジミーに見つからないようターゲットがギリギリ視覚出来る距離にある建物の屋根にいた。
ギルド上位者の区画と街路で分かたれたここは、商店がない為か人通りが極端に少ない。それ故にこの一角の闇には誰も気付かないフリをしているようだ。
「依頼内容は、このボロい建物の使用用途と悪事の証拠の押収…か。建物の所有者が分かってるんだから、騎士団が突入しちゃえば良いのに。…って、無理なのは知ってるけどさ。」
呟くように文句を言うハル。
騎士団は王城と貴族街の警備を任されている。だが、突入するには所有者の地位が高過ぎるのだ。確たる証拠がなければ、騎士団といえども易々と敷地に立ち入る訳にはいかない。
(人間、難しい)
ダンは黒豹なので、そういった地位や権力の話は理解出来なかった。ただ、ハルが難しそうな顔をしている為にそう感じたのである。
「…難しいと言うよりは、面倒なんだけどな。やたら拘りがあるから、その全てを加味してってなると余計ね。」
呆れたように溜め息をつくハル。
それでも、ハルはハンターとしての矜持で依頼をこなすだけだった。
(ハル。中が動いた)
「OK。…風音。」
建物内部の様子をダンに見張らせていたハルは、動きがあれば教えるように言っていたのである。
終止魔法を使う事は可能だが、また頭痛に苛まれてはいざと言う時に動けなくなるからだった。
風音の魔法を発動すると、同時に様々な音がハルの耳元で繰り広げられる。況してや今は町が活動中だ。動いているものが多ければ多い程、音はとりとめもなく発生する。
僅かに眉を寄せたハルだったが、その大音響の中で目的とする音を探り当てた。大勢が何かを運び入れている。
「やっぱり小鬼が複数…20…いや、30体はいるかな?」
完全な気配を察する事は出来ないが、音の発生件数からハルはそう判断する。
「ヘイリー姉さんもしっかりと建物裏に発見した事だし、もう少し様子をみるか。」
手を下すには早すぎるのだ。
依頼を受けたのはジミーであって、ハルではない。不用意に手を出すのは、ジミーのハンターとしての矜持を傷付ける事になる。
(あの男女、大丈夫?)
可愛く小首を傾げるダンだが、その言葉からは嫌悪が滲み出ていた。
「アハハ、男女って…。ヘイリー姉さんはちゃんと男なんだけど、あの見た目だから男にも好かれるんだ。勿論女性にも人気があるから、何処に行っても引く手あまたなんだけどね。で、本人は同性に好かれる事を酷く嫌っている。」
本当は知っているジミーの事情なのだが、事あるごとに執拗に干渉してくるので、ハルはそれを分かっていながら返り討ちにしているのだった。




