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「…なるほどな。」
煙草の煙を吐きながら、アンディは窓の外を見ている。
広くはない室内で向かい合って座るアンディとハル。ちなみにダンは、ハルの足元で伏せていた。
ここはギルド二階のアンディの書斎で、機密保持の為に防音の魔法が掛けられている。
ここでハルは朝見た事を話したのだ。
「その黒豹が、か。」
「はい。とりあえず依頼を受けてた訳じゃないんで、俺はそのまま放置しましたけどね。」
ダンに視線を移したアンディの問いに、ハルは肩を竦めてみせる。
「それは正解だ。」
「…何があったか、聞いても良いですか?」
次いで向けられたアンディの視線を、ハルは真っ向から受けた。
「ふむ…。これは極秘だ。」
一呼吸分瞳を閉じたアンディだったが、次に向けられた青い瞳は鋭い。
貴族がらみだ、とハルは思った。
事あるごとにギルドへ金と権力をちらつかせてくる貴族は、依頼をしてくる際に守秘義務を要求してくる。そしてその後も自分達が納得しない限り、報酬の支払いすら悪いときていた。
「そ、すか。まぁ、それなら俺は良いですよ。」
「まぁ、待て。」
聞かなくても良いとばかりに腰を浮かせたハルだったが、それをアンディが引き留める。
「話さないとは言っていない。」
「え~、良いっすよ。貴族がらみなんですよね?」
嫌そうな顔を見せるハルに、立ち上がる雰囲気を察したダンが擦り寄った。
「さすがだな。」
「そんな誉め言葉は要らないですよ。だからヘイリー姉さんに依頼を受けさせたんですよね?」
表情を変えないアンディだが、ハルはその真意を読み取る。
ダンの頭を撫でながら、とりあえず一旦浮かせた腰を落とした。
「そうだ。ジミーは元貴族だからな。」
「伯爵家の次男とは、俺も聞いた時に凄く驚きましたけどね。」
軽く手を振って告げるハル。
世襲とはいえ、跡継ぎではない貴族はただ上流家庭の生まれというだけである。自らが爵位を賜るか、何らかの仕事をしなくてはならないのだ。
「実家が伯爵ともなれば、そこいらの貴族は大抵大人しくなる。」
「けど貴族の悪事を暴くってのは、結構キツいっすよね。特に後処理が。」
アンディは言わなかったが、ハルはあの状況的にそれを察していたのである。
「俺は何も言っていないが。」
「分かりますって。貴族街で…しかも小鬼をあれ程の数誘い入れるなんて、地位と権力のあるバカが悪事を働く為以外にないでしょう。」
呆れつつも告げたハルに、アンディも苦笑を漏らすのだった。




