22
■□■
「何だい、ハル。今日は黒猫と散歩かい?」
ハルと同じハンターギルドに所属しているジミー・ヘイリーが、ギルド奥から声を掛けてきた。
その言葉にのせられた嫌な感情に、黒猫呼ばわりされたダンが牙を剥き出しにする。
「落ち着け、ダン。こんな分かりやすい挑発に乗るな。…ヘイリー姉さんこそ、今日はいつもより遅いですね。昨夜は彼氏とお楽しみでしたか?」
ダンにしか聞こえない小声で注意し、返してにっこりと笑みを浮かべてジミーに応じるハル。
言葉に刺をつけるのを忘れない。ジミーはそれにカッと顔を赤くした。
「なっ…、アンタねぇっ!」
「あ、失礼しました。特定の方はいらっしゃらないんですよね。でも残念ですね。ヘイリー姉さんの想い人であるマスターは既婚者ですし。」
すぐにハルに余計な干渉をしてくるジミーだが、毎回懲りずに言い負かされている。
「私は女じゃないって言ってるでしょっ!それにブラックバーンさんは…っ。」
「俺がどうかしたのか。」
「っ!」
狙ったかのようなタイミングで現れたギルドマスターのアンディ・ブラックバーンに、ジミーは息を呑んでしまった。
「どうした、ジミー。ハル、またジミーと口喧嘩か。」
二の句を紡げずに視線を逸らしたジミーに、アンディは問い掛けをハルに変更する。
そしてこの二人、一事が万事こうなのだ。既にギルド公認の痴話喧嘩なのである。
「おはようございます、マスター。俺はヘイリー姉さんに朝の挨拶をしていただけですよ。」
「…姉さんじゃない。」
にっこりと応対するハルに、小さく言い返すジミー。
「全く…。ジミー、あの件は頼んだぞ。ハル、依頼を受けに来た訳ではないなら帰れ。」
アンディはジミーに何か依頼をしていたらしい。
確認するようにジミーに告げ、ハルにも淡々と言葉を投げ掛けてきた。
「分かりました、ブラックバーンさん。では、行ってきます。」
相変わらずすれ違い様にハルに鋭い視線を投げ付けて、ジミーは颯爽とギルドを出ていく。
「…マスター。貴族街の手前、ボロい建物ありますよね?」
ハルは依頼ボードを見ながら、世間話のように今朝見た事を話題にしようとした。
「何を知っている。」
だが、それを聞いたアンディの反応は固い。
今ギルド内にはアンディとハル以外に誰もいないのだが、それは何故か。いくら昼に近い時間とはいえ、誰もいないのは珍しいのだ。
「あ~…。もしかして俺、タイミング悪かったですか?」
ハルはこの雰囲気から察し、苦笑を漏らしながら頬を掻いて見せる。
そしてダンは、ジミーが出ていった扉をただ睨んでいた。




