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「おい、ハル。この際だからヘイリーを相手にしてやれよ。」
「そうだ、そうだ。ってか、要らないなら俺にちょうだい!」
「バカだなぁ、お前なんか相手にして貰える訳がないだろう?ヘイリーさんはクロフォードだから食ってかかるんだからよぉ。」
様々な声が入り乱れるここは、ハンターを取りまとめるギルドである。
ギルドとはその名の通り、独占的な同業者組合の事だ。そしてハンターとは狩りをする人。狩猟家という意味だが、ここではほぼ何でも屋だった。報酬次第では、大概の依頼をこなす。
「煩いぞ。お前達は早くクエストに出ろ。これ以上無駄口叩いているようなら、記録媒体を減点するぞ。」
叫んだ訳ではないが、ギルドマスターのアンディの声は建物を揺らさんばかりに響いた。
「はいっ、行ってきます!」
「すんません、減点だけは勘弁してくださいっ。行ってきます!」
等々、口々にアンディに頭を下げながらギルドを出ていく屈強な体躯の男達。
アンディの告げたカラーとは、ギルド登録員は全て身に付けている3センチ角大のペンダントである。
これは魔法学に基づいて設計開発された特殊な金属で、登録者の肉体と接する事でその者の経験を数値として記録する記録媒体だ。
ギルド種類ごとに色分けされているため、そう呼ばれる。ちなみに、ハンターは青色だ。
「全く口の軽い奴等だ。ハル、お前よりもジミーは年長者だろう。同じランクとは言え、からかうのは人がいない時にしろ。ジミーも、いちいちハルに食って掛かるな。遊ばれていると分からんのか。」
それぞれに一言ずつ釘を刺すアンディである。
必要以上に割って入る事はないが、ギルド内を円滑に回すのも彼の人柄があっての事。
元Aランクハンターである事も関係しているが、ハンター達に力ずくでの強要は一切しないのだ。
「はぁい、マスター。…で、ヴォジャノーイを狩った俺にご褒美は?」
未だに胸元をジミーに掴まれているハルだが、表情は変わらずにこやかである。
「カラーを出せ。報酬は規定プラス1割。それ以上は出せん。ジミー、いい加減にハルから手を放せ。」
しかめっ面のまま、ハルへ手を差し出すアンディ。
それでもジミーに一言告げる事を忘れなかった。
「だって、ブラックバーンさんっ。」
「二度言わすな。ジミーも次の依頼を受けているだろう。」
なおもいい募ろうとしたジミーだったが、アンディからの凍り付く視線に顔色を青くする。
「…はい、すみません。行ってきます。」
渋々ながらもその手をハルから放し、自らのクエストへ向かう為にギルドを後にした。
勿論、アンディに見えない角度でハルを睨み付けるのも忘れずに…である。