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暫くそれを見ていたハルだったが、空が明るくなってきた頃、不意に立ち上がる。
(どうした、ハル?)
「ん?帰って寝るんだけど。」
(何で?)
ハルは既に背を向けており、ダンはそれすら理解出来なかった。
地面に伏せたまま、ハルを見上げて動かない。
「何でって…。当たり前だろ、依頼が出ている訳じゃないんだ。」
振り向いて答えてはくれたものの、片手を振って話を終わらせると、再びクロフォード邸へ足を向けていた。
(何で?何で?何で?)
先程誉めて貰えたのに、何故かこの件を放置すると告げるハルが分からないダン。
慌てて腰をあげハルの後ろをついて歩きはしたものの、ダンは疑問をそのままぶつける。
「…煩いな、ダン。散歩は終わりだ。だから帰る。…風翼。」
ダンの疑問に答える事なく一方的に会話を終了させ、ハルは飛行魔法を唱えた。
(わっ、わっ?!)
勿論それはダンにも掛けられ、不馴れな空中に引き上げられてワタワタと慌てる羽目になる。
「舌を噛むぞ。」
隣で飛行するダンの、獣特有の長い舌を見て注意するハル。
(だって…、怖いもんっ)
「…ったく、仕方ないな。」
軽く溜め息をつき、四肢をバタつかせるダンを抱き締めた。
ヒヤリと冷たい毛皮が心地好い。風音の魔法を長く使用していた為、少しばかり頭痛を感じていたのだ。
(ハル~っ。)
「ここにいるだろ。怖いなら目を閉じていても良いから、帰ったら少し寝るぞ?ギルドが開くまでにまだ時間があるからな。」
ダンは頭をハルの胸の辺りに押し付けてくる。
ハルはそれに半ば呆れたように告げながらも、本心は身体を休めて頭痛を和らげたいが為なのだ。
(ごめん…、ハル。俺…、迷惑?)
下を見ないようにか、ダンは頭を押し付けたまま問い掛けてくる。
「バカだなぁ。迷惑なら捨ててるって。」
(す、捨てるの?!)
「だから人の話を聞け。迷惑なら、って言ったろ?」
ダンの柔らかな頭部を撫でながらも、ハルはクロフォード邸への飛行を意識していた。
魔法は放って終わりのものと、意識し続けなくてはならないものの二種類がある。一般的に攻撃系は前者、防御系は後者だ。
そしてハルは、攻撃系を得意とする術者である。
(え?えっ?どういう事?ねぇ、ハル。俺、分からない。どういう事?)
ハルに頭部を撫でられてはいたが、ダンは飛行の不安と先程の言葉への不安で混乱している。
思わずといった様子で、ハルの身体に抱き付いたダン。ちなみに忘れてはならない、ダンは黒豹だ。
「っ!爪を立てるな、バカっ!」
撫でていた筈の手で、思い切りダンの頭を叩くハル。
(ふぎゃっ!)
黒豹は猫科である。力を入れれば、自然に爪が出てしまう。
それが故意でないにしろ、身の内に抱き入れたハルの背に刺さるのは仕方がなかった。




