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ハル・クロフォードの場合  作者: まひる
ダン
17/322

17

(あれ…?)


「何だ。どうした、ダン。」


 地面に付きそうな程、鼻先を下げていたダン。


 突然何かに気付いたように、勢い良く顔をあげる。


(あのね…、何かね…?)


 一通り周囲を見回した後、再びクンクンと地面のにおいを嗅ぎ始めた。


 その説明は要領を得ないが、何かの気付きがある事は確かである。


 ハルは静かにダンの様子を伺った。助けを求められれば、いつでも手を貸せるように。


(あ…、あっち…っ)


 突如何かを察し、ダンが勢い良く駆けていく。


「ぅおっ?!マジ?」


 トップスピードで夜明け前の町を走っていく黒豹ダン。


 …勿論、人がついていける筈はなく。


「何処行ったっ?!」


 ダンの姿を見失い、ハルは拳を両の手に作って叫んだ。


「ダンっ?!何処だ~っ。…何で黒なんだよ~っ!?」


 自分の格好も黒一色なのだが、それを棚にあげてハルは天を仰ぐ。


 この世界では珍しい黒髪黒眼のハル。彼は他に黒髪黒眼の人を見た事がない。でも母親の容姿にそっくりだと、父親から良く聞かされた。


「…黒…。OK、分かったよ。」


 呟きながら、ゆっくりと仰いでいた顔を下げる。


 だが、先程の焦りはその瞳になかった。力強い黒い瞳。


「…風音(サウンド)。」


 ハルは風の捜索魔法を発動させた。


 壁があろうと密閉されていようと、空気がある場所に存在する全ての音を聞き取る。


 範囲は込めた魔力次第。今回の捜索対象は黒豹のダンだ。


「…足音。…息遣い。…まだ走ってるな。」


 ハルは聴覚に集中させていた意識を戻す。そして、音の聞こえた方向を向いた。


 ここは王都トラヴィス。この魔法、本来ならばこれ程多くの生き物が存在する場所では(おこな)わない。何故ならば広げた魔力範囲、全ての音が耳元で響いているかのように聞こえるのだ。


 人は普段、無意識のうちに聞く音を選別している。全ての音を聞く必要もなく、ましてやそれら全ての情報量を処理しきれないからだ。


 だがしかし、この魔法はそれを無視する。全ての音という音を術者の耳に届け、知覚させる。


 生物の息遣いも鼓動も植物の中を通る水の音も、目に見えない程極小の生物の(うごめ)きから地中の生物が這う音まで、全てだ。


「…ふぅ…。」


 ハルは細く長く息を吐く。


 この魔法は術者にかなりの負担を与える。頭が割れそうな程の大音量の中で求める音だけを拾い、聞き分けなければならないからだ。


「アイツ、会ったら(はた)く。」


 再度違った意味で拳を握り締め、ハルは目指す方向へと歩を進める。


 まだ町が起きていない時間帯で良かった。


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