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そしてハルは焼いただけの肉と千切っただけの野菜、買い置きのパンで夕食をとる。勿論ダンは生肉で、調理器具は魔法石使用。
魔法石は高価だが、魔法屋で購入が出来る。つまりは、お金に不自由していない生活を送る者のステータスだった。
(ハル。明日は俺、一緒か?)
一足早く食事を終えたダンは、猫科特有の動きで自分の顔を拭いながら問う。
食事する部屋は同じだが、ハルはテーブルで、ダンは床で食べるのだ。
「ん~…、そうだな。まだ依頼を受けてないから何とも言えないけど、急ぎの貴族関係じゃなければ良いぜ?」
(やった!俺、ハルと行く)
ハルは最後の一欠片の肉を口に放り込み、軽く咀嚼しながら答えた。
そしてハルの返答へ、黒豹の癖に笑顔に見える表情を浮かべるダン。
「そんなに嬉しいのか?…本当に可愛い奴だなぁ。」
その反応に嫌悪感を感じる筈もなく、ハルはにっこりと微笑みながらダンの頭を撫でてやる。
ダンは気持ち良さそうに目を閉じ、その感触に浸っているようだ。
「よし、そうと決まったら寝るぞ!ダン、その皿を持ってきてくれ。」
(分かった)
自分の食後の食器を持ちながら、ダンにも自身の食器を持って運ばせる。ちなみにキッチン立ち入り禁止のダンが運ぶのは、その入口の扉前までだった。
水魔法石の給水設備で食器を洗い、ハルはダンと共に二階の寝室へと上がっていく。
(ハル…。ハル…。)
「くすぐったいだろ…?やめろって…。」
腹部辺りに頭を押し付けて甘えてくるダンは、ハルと共に寝られるのが嬉しくて堪らない。
ハルは就寝時衣服を身に纏わないので、ダンの柔らかな毛が皮膚を刺激して、ムズムズと笑いたくなるような気持ちを誘う。
だがそれでも睡眠不足の身体は眠る事を要求していて、ハルは微妙な責め苦の中で意識を落とした。
■□■
「ねぇ、お父さん。何か聞こえるよ?」
「何かいるのか?ハルは耳が良いからな。お父さんには聞こえないが、危ない気配はしないんだろう?」
今より少し小さな頃のハル。そこは仕事中に立ち寄った小さな村だった。
「うん、殺気は感じない。けど、何か泣いているみたいなんだ。…あっ!」
声の出所を探して周囲を見て回っていたハルが、突然大きな声をあげる。
点々と建ち並ぶこの村独特の小屋の一つに、小さな黒い獣が鎖に繋がれているのを発見したのだ。
「お父さん、あの子…可愛そうっ。」
「ほぅ?黒豹か、珍しいな。」
父ジェイラスは一目で猫とは異なる動物である事を見抜いたのだが、村人との交渉の末にその黒豹をクロフォード邸に招き入れる事となったのだ。




